第12章 夏の思い出
私が一人照れながらも悶々と中也にどう退いてもらおうか考えていると、先程まで心の底から楽しそうにしていた中也の眉尻が少し下げられる。
そしてそのまままた中也の顔が近づき、体を強ばらせたのと同時に額に少し長いキスが落とされた。
『…だから、もう今日は恥ずかしいからやめ「生きててよかった」!……心配してたの?』
「したに決まってる。お前、今度無茶しやがったら死ぬまでキスしてやっから覚悟しとけよ」
『容赦ないなぁ…ごめんなさい。でも中也が何ともなくて良かった』
「…………俺が何ともなくったって、お前にもしもの事があれば俺多分死ぬぞ。今回も正直かなり途中で周りにも心配かけたからな」
どこでも警戒はもう解かねぇ
お前を死んでも護れるようになる
私を抱きしめ、腕を少し震わせながら小さく呟かれたその言葉。
『やっぱ馬鹿でしょ…死んだら意味無いじゃない』
「うっせ、そん時ゃお前がどうにかしてくれんだろ」
『悪い人……ねえ、お願い。死なないで?あんな感覚、覚えていいものじゃないからさ』
「…なァにしけた面してんだよ、俺がそんな簡単にくたばるわけねえって、お前が一番よく分かってんだろ?逆に心配させたな、悪い」
再び頬に落とされるキスに、流石にこら、と彼の頭に手を置いた。
心配したからってそうはいかない、このままいったら確実に今日キスだけで寝かせてもらえなくなってしまう。
『悪いと思うんならキスもう禁止』
「俺がお前を見てキスしたくなんのは自然の摂理なんだが」
『……明日ならまたしていい…ですから』
「敬語もありだなやっぱ。可愛いからもう一回だけ『蹴り飛ばしますよ』やってみろ」
私の両手首を掴んだかと思えばそれを片手で纏められ、上で痛くない程度にベッドに押さえつけられる。
拙い、本気だこの人。
『…っ、手離し…ッ!?……ぁ、ち、中也さ…これはずる…』
「俺の手なら怖くはねえだろ…怖いか?」
『ふぁ、ッ…んん……っ』
もう片方の手で目を覆われ、視界が暗くなる。
ベッドライトの明かりさえもが遮られて恐ろしくなる…かと思いきや、パニックになることも涙が出るようなことも、嫌なことを思い出すようなことも無い。
中也に焦らすように唇を舌でなぞられ、身体が震える。
どんなタイミングでどんな事をされるのかが分からなくて、ただの恐怖とは別の感覚が私の身体を支配した。