第12章 夏の思い出
『はー…ッ、ぁ、は……ぅ、っ』
「なあ蝶、一つ不味いことになった」
『へぁ…っ?』
散々口付けを落とされ続けて息が絶え絶えになった頃。
中也が突然真剣な顔をして私を見つめる。
「俺、多分死ぬまでお前にキスしてられるわ」
『もうしないでいいからあああ!!!』
半泣きになって胸板を押しても背中を叩いてもびくともしなかったこの人だ、する気になったら本気でするかもしれない。
というかどんな殺し方だ、新しすぎるんじゃないのキスで殺すとか。
中也が死ぬ前に私が何回か恥ずかしさで殺される。
そして良くも悪くもタフなんだよなこの人、なんで息切れの一つもしてないのよねえ。
割と本気で叫んだ結果、キョトンと目を丸くしてうりうりと頬をつつき始められる。
…なんだこの反応は。
「んで?あんな事やそんな事されて蝶さんは見事に躾けられちまったわけだが」
『キスしただけでどんな言い回ししてんのよ!!?』
「おー!上出来上出来、いいじゃねえか!」
『なんでそんな嬉しそうに…っ、馬鹿って言ってやる……!ついでに阿呆だ、鬼!!』
ヤケになって暴言を吐き始めても嬉しそうな顔で無邪気に笑うのがこの鬼。
私が暴言吐いたり言い返したりしたらなんでこうも嬉しそうな顔になるのか。
「小生意気なくれえが丁度いい…まあお前が例外なだけだがな。子供らしくて結構結構」
ケタケタ笑う中也にはやはり私の暴言は通用していなかったらしく、それにプクリと頬を膨らませるとそれを潰さない程度にまたつつかれる。
『子供扱いしてるの?』
「お前はもっと餓鬼らしい部分があってもいいだろって何回も言ってんだろ。これで癒されんのはお前くれえだが…あー可愛い」
『他の子が生意気ならなんだって言うのよ……可愛くないし』
「とりあえず殴って二度とんな口きかねえよう躾けてやる。可愛げねえ態度とる時も含めて可愛い奴だよお前は」
彼の親バカ具合にそろそろ呆れ始めた。
今更といえば今更…だけどまさかそんなレベルであったとは。
『殴られた方多分骨格歪むからやめて』
「お前の知り合いなら『やめてよねマフィア脳』……善処する」
これは私と友達になってなかったらまずカルマ君がアウトだったな。
脳内でカルマ君の飄々とした態度を思い浮かべて、ギリギリセーフだったねと少ししみじみしてからすぐにあの顔を脳内から消し去った。