第12章 夏の思い出
「……お前本当役得だよな」
『なにが??』
「いや…良かったなって。お前にとっちゃあ天国みてえなもんだろ」
家に帰るとあら不思議、大量の御見舞の品…という名の甘いスイーツが私の部屋に山積みにされていたのです。
送り主といえばクラス、先生方、首領や紅葉さんに留まらず、探偵社の個人個人やまさかの親バカサイトの会員さんに至るまで…
『えへへ、クレープ少なめにしておいて良かったね』
「お前の少なめはクレープ十六枚なんすか、そうなんすか」
会える人ならともかく、私の情報を聞きつけてここまでしてくれた人で住所が分かる人にはお礼したいし、そこだけちゃんと取っておかなくちゃな。
サイトの方から私に何か送る場合は武装探偵社宛に送ることになっているらしく、まあそれが全てどういうルートを通ってか家にまで綺麗に運ばれてくるそうだ。
誰が運んできてるんだろこんな量。
日持ちのいいものはまたの機会にしておいて、紅茶を飲みきって食器を下した。
今日は動くなとまた家事禁止令が出されてしまったため椅子の上でそれを片付ける中也の背中を見つめる…のはいいのだけれど。
「…視線うるせえよ、ダメだからな」
『まだ何も言ってないんだけど』
「どうせ何かしたくて落ち着かねえだけだろ」
『……拭くくらいなら「ダメだ」なら明日からのデザートの仕込みを「ダメ」…じゃあ抱きつくのは「その手には乗らねえからな」けち』
全部見抜かれてるなこれは。
警戒モードに入って徹底的に私に家事をさせないつもりだこの人…知ってたけど。
カチャ、と軽く音がしてから、中也がテーブルの方に戻って来た。
私の隣に来て少し腰をかがめ、目線を合わせられてまた少しドキドキする。
……荒い性格な癖してなんでこんな優しくて気が利くのよこの人、その上かっこいいとか悔しい。
「何ふてくされてんだよ…俺そろそろしてえ事あるんだけど、聞いてもらっていいか?」
『ふてくされてないもん。したい事?……っ、ひゃ…』
小首を傾げてなんだと思いつつ顔を上げると、中也の両手が私の頬に触れる。
思わず目を閉じてしまい、何も言われないので恐る恐るそれを開いていくと、中也がふ、と微笑んで言った。
するとその手が離れ、私の片手を取って目の前に中也が膝をつく。
そして何かと思えば、彼は片手でどこからか箱を取り出したのだ。