第12章 夏の思い出
その箱には、見覚えのある店名のロゴが控え目に入れられている。
その瞬間、中にあるものが何なのかを悟ったのだけれど…頭がそれを理解するのが追いつかなかった。
なんでだろ、くるってことは分かってたはずなのに…
『中也さ…っ、それ……!』
「お前が寝てる内に届いちまって、仕方なく取りに行ったんだよ。……ほら、大人用だからまだちょっとでけぇけど」
開けられた箱の中に並ぶ二つの指輪。
想像を遥かに上回る出来のそれに、胸から色んなものが込み上げてきて、なんとも形容し難い気持ちでいっぱいになる。
彼の手に取られた左手…その薬指に、まだ少し私には大きい指輪が通される。
内側にローマ字で名前の彫刻まで入っていて、それが私の中の何かを強く刺激した。
『本物…ね、私の名前も入ってるよ……っ?』
「そりゃそうだろ、お前のもんなんだから」
『何なんだろ、これ…なんか、初めて実感した…私、ここで生きてきてたんだね…』
私の声に中也さんの肩がピク、と揺れる。
「…ああ、そうだ。お前は……蝶はちゃんと生きてる。それで、これからも俺と生きてくんだよお前は」
『!うん…っ、私幸せ者だ……今日なんて、二つもこんなに嬉しいんだよ』
生まれてきてくれてありがとう、そしてこれからも、一緒に生きていこう。
ずっとずっと押し殺し続けてきて、心のどこかで待ち望んでいたこの言葉。
「はっ、言葉めちゃくちゃになってんぞおい…俺が死んでも一緒にいてえと思う奴だ、幸せにしてやりてえに決まってる。そう思ってもらえて俺も幸せもんだな」
左手を差し出され、今度は私の方からその薬指にもう一つの指輪をはめた。
『…結婚式終了??』
「馬鹿、まだしてねえっつの。お前成人してねえだろって」
『ちぇ、分かりましたよ…』
「……するなら、前みてえに綺麗な格好でさせてやりてえしな」
思わぬ返しにへ?と目を丸くする。
そしてその前というものを察して、思わず顔を背ける。
否、背けようとした。
再び両手を頬に添えられ、その上今度はほぼゼロ距離に至るような距離にまで顔を近づけられてしまったのだ。
「お前、まさかこれでやりてえ事終わりだとか思ってねえよな」
『な、っ…何を……っ?』
「楽しみはこっからだろ、俺のデザートはお前だからなァ?約束通りたっぷり可愛がってやる」
『そんな約束身に覚えが…っ!!』