第12章 夏の思い出
「ほら蝶ちゃんストップストップ、それ以上言ってたら中也さん照れすぎてこっち向けなくなっちゃうから」
『!!あ、そうだ中也さ……ッ!!?』
グイッと腰に腕を回されて、何かと思えばそのままそちらに引き寄せられ、中也さんの方を向かされた。
そしてすぐさま私の口に甘い味が広がって…かなりの量のクレープが一気に口の中に押し込まれる。
「ちょっとでいいから大人しくしてろ、ちょっとでいいから……んでお前、今また呼び方戻りかけてたろ」
『ン…ッ、ンン、!!』
このクレープ、中也さんが注文してたやつだ…こんな直接的な関節キスとか有り得ない、中也さんの方にしか顔向いてなくってよかった。
口の中に入りきらなかった分のクリームとストロベリーソースが口元を伝う。
しかしそれを指で掬いとって、中也さんは舐めとった。
それにブワッと顔が熱くなって中也さんに反論しようとするも、一気に食べきれないような量のクレープを押し込まれているため、言葉を発することすら出来ない。
するとかれの口が耳に寄せられて、低い…けれども甘い声が、私の脳内に響き渡る。
「そんなに好きかよ…帰ったら約束してた通り可愛がってやるよ」
なんの約束だ、そんなの全然覚えてない。
とにかく耳から伝う刺激が強くて、すぐにでもこっちが蕩けてしまいそうになった。
そんなところでようやくクレープを押し込もうとするのをやめてくれ、口に入っていた分をなんとかゆっくりと食べきって、肩で大きく息をする。
『ハ…、ァ……っ』
「もうダウンかよ、早ぇなおい。デザートはお前の十八番だろ…クレープ落ちそうになってんぞ」
「またあんたは何したんすか!!?蝶に無理矢理クレープ一気に食わせたりして!!!」
救世主立原の声が聞こえる。
なんだかんだ言ってまともな感覚を持ってるのが立原だ。
しかしそこで折れないのがこの鬼。
「何って躾に決まってんだろ?こんな事なら休みのうちに名前んとこまで仕込んどけばよかったがな…ま、すぐにそう呼ぶようにしてやるさ」
『ッ!…中也ぁ……』
中也に腕を回して、もたれかかるように抱き着いた。
驚きもせずにそれを受け止め、よしよしとまた撫でられる。
「おー、そうそう、スイッチ入ったらやっぱ言えんのなお前。……ほら見てみろ、こうすれば早ぇ」
「鬼っすかあんた」
「「「ダメだこの人」」」