第12章 夏の思い出
「…練習なァ?歳とか気にしなくていいっつってんのによ」
『そういう問題じゃなくて…っ、ち、中也さん好き過ぎ…て……そ、それにそういう距離感あんま分かんなぃ……』
チラ、と彼の目を見てまた視線を下に戻す。
するとカエデちゃんからああ、と声が上がった。
「そういえば蝶ちゃんって、皆大体苗字で呼んでるよね」
それに前原君が続けて言う。
「確かにカルマと茅野くらいだよな、名前呼び。皆が苗字で呼ぶような奴ならまあ分かるけど、渚の事まで苗字で呼ぶような奴初めて見たぜ?」
「うん、白石さんくらいだね」
頷く渚君に、ようやく私も気が付いた。
本当だ、確かに皆、潮田君なんて呼んでない。
「あ、あと皆がさんって付ける子にもだいたいちゃん付けで呼んでる」
「「「確かに」」」
中也さんは何故かそっぽを向いた状態で立原と広津さんに宥められていて、そこ以外の全員から視線を集められ、逃げ場の無い状態に。
注目されると余計恥ずかしいのに。
『お、おかしかった…?その……っ、友達…とかそんな作った事ない…から……』
そんなものを作る余裕なんてこれっぽっちも無かったのだ。
仲間というものを作った経験なら勿論ある。
けれども、やはりそれと友達とはまた少し違うもの…
学校というものに初めて通って、初めて友達という存在を作れる環境に巡り会えた。
初めて、友達から始められるような仲間に出会うことが出来た。
仲間になって友達になることなんかは、もしかしたらとっくにあったのかもしれない。
けれども友達になって、そういう絆で結ばれた仲間か出来たのは初めての事。
キョトンと目を丸くする皆の視線が刺さる。
恥ずかしさにまた目を逸らすと、カルマ君が口を開く。
「蝶ちゃんて本当純粋…てか純情だよねぇ。そっかそっか、確かにあんまり人に慣れてなかったって事を考えれば、恥ずかしがり屋なのも納得だわ」
『そ、そういうのいいから…』
「でもそう考えるとあれだね、やっぱり中也さんなんて特別思い入れが深いだけ、呼び捨てにするのは恐れ多くなっちゃうわけだ」
『!分かる!?分かってくれるカルマ君!!?』
分かった分かった、落ち着いてよ中也さんが後で怖くなるから、と落ち着かされて、大人しくする。
『もう崇拝してるの。尊いの。好き過ぎて頭おかしいの』
「すぐ隣で惚気けてんじゃねえっつの…!!」