第12章 夏の思い出
クレープを両手で持って食べ進めていると、私を撫でていた中也が何かに気が付いたのだろう。
突然、その手をピタリと止めた。
「…あ?」
その声に、潮田君がどうしたんですか?と理由を尋ねる。
すると私の頭から手を退け、自身の外套を脱いで上着の内側を探り始めた。
「いや、確かに持ってきてたはず…腕上げてて今気付いたとかありえねえだろ、どこで落とした?」
持ってきてたはず、落とした、という発言に、周りも疑問符を浮かべる。
ただ一人、私を除いて。
「どうしたんすか?中也さん、いったい落としたって何を??」
「………ナイフ」
「「「え」」」
皆は勿論なのだけれど、立原と広津さんが一番驚いている。
それもそうだろう、この人がそんな単純なミスをするはずは無いのだから。
確かに普段なら私だって驚くような事である。
しかし今回ばかりは話が別だ。
『あ、それ私のせいだから気にしないで』
「お前かよ!!?……いや、なんでナイフ取ってんだお前!!?つかいつ抜いた!!」
『さっき竹林君に渡してきた』
「「「渡してきたぁ!!!?」」」
口をぱくぱくさせて私を見る皆をまあまあ、と落ち着かせる。
こっそりと彼だけに分かるよう、中也のナイフのホルダーごと渡してきたのである。
『なんか面白い事考えてそうだったからさぁ…ちょっとだけ背中押していこうと思って』
「は、話が全く読めないんだけど蝶ちゃん?面白い事って…?」
『面白そうだから内緒♪ごめんね中也、でも今日のはサバイバルナイフじゃなかったからいいでしょ?あれだったら二本しかないから借りていくのも躊躇うけど』
カルマ君の問いに秘密だと返す。
ここで言ったら面白くないじゃない、竹林君が折角勇気出そうとしてるんだから。
しかしここで、何故だか皆が再びピシッと固まった。
中也は頭を混乱させているだけなのだけれど、皆真顔になって私を見る。
『え…何皆、どしたの』
「い、いや……蝶ちゃん今、中也さんの事…」
磯貝君に言われてようやく気が付いた。
そうか、ちょっと前に変えたばっかりだったから皆知らないんだ。
『うん、そうしてほしいって言われたから今頑張って練習中』
「な、成程…って練習?」
『……私だって慣れないものは恥ずかしいわよ』
フイ、と磯貝君から顔を背けると、何故か中也の様子が元に戻った。