第12章 夏の思い出
カエデちゃんと神崎ちゃんに案内してもらったクレープ屋さんで、口にしていた通り、チョコバナナクレープを注文した。
皆各々の好きなものを食べ始めるのだけれど、流れで大人数になってしまったため、ベンチは使わず近くにあった手頃な階段に座る事に。
『こういう時が幸せ〜…♡』
「そんな事言っていいのかよ白石、中原さん妬くぞ?クレープに」
「なんつった杉野手前、文句あんのかこ…うぐ、!?」
杉野君に大人気なくも喧嘩を売ろうとした中也の口に、無理矢理スプーンを突っ込んでクレープを食べさせる。
『ねえ、なんで杉野君の方にそんなに身を乗り出したのかなぁ?』
ニコリと聞いてスプーンを抜けば中也はああ?と顔を少し赤らめながらも聞き返す。
しかし周りは何かを察したのか、引き攣り笑いでこちらに目線を向けるのみ。
『私がいるのに杉野君の方に近付いてっちゃうんだ?へぇえ〜…』
「……待て、杉野に近付いてって、お前の方が近ぇだろ。しかも男相手に何をそんなに…」
そう、私が気になったのは杉野君に絡もうとしていたからではない。
『私を挟んでるっていうのに、私に構わず杉野君の相手ばっかりしちゃうんだ?』
「そうだな、全部俺が悪かった!!馬鹿な奴だな俺は全く!!目の前に蝶さんがいるってのに、ははは…」
『そうだよね。ただでさえさっきだって学校でちゅーし損ねちゃったばっかりなのにね』
「「「「ブッ!!!?」」」」
まとめて吹き出した皆。
立原も勿論だけれど、広津さんまでもがかなりの衝撃を受けている様子。
『ここに来るまでの間だって結局手繋ぎ返してくれなかったし?トウェインさんと別れてからまだ全然ぎゅーしてもらってないし、撫でてもらってないし挙句に杉野君にばっかり食ってかかってるし』
「中也さん普段蝶ちゃんに何してんのいったい?」
「夏休みだったんだから仕方ねえだろ…じゃなくて蝶、お前んな事今言ったって『素直に言えって言ったの中也さんなのに』……」
ここまで言えば顔を背けて頬杖をつきながら、わしゃわしゃと片手で頭を撫でられた。
我ながら、言質を取ったずるい言い方。
だけどこれでようやく触れてもらえたから、段々と機嫌は良くなっていく。
「素直ってのも考えもんだなこりゃ…」
『えへへ、蝶これ大好き♪』
「……うちの嫁やべえわ」
「「「いつの間に嫁になってたんだよ」」」