第12章 夏の思い出
『私、別に自分が頭良いとか思ってないけど…馬鹿ではないつもりだけど馬鹿だって言われる事あるし』
私の言葉が更に刺激してしまったのだろうか、竹林君が何かを吐き出すようにして声を上げる。
「君は僕とは違うからそういう事が言えるんだ!!好きな人と一緒にいれて、家庭にも恵まれて頭も良くて、そんな君に何が分かる!?」
勉強が出来るんだろう、なんでも解けてしまうんだろう。
言われる言葉が頭の中を巡る。
「てめぇ、こいつの何を知っててんな事を『待って立原、いいから』!けどお前…」
怒るようなことじゃないでしょ、相手は中学生よ。
冷静に諭すと潔く大人しくなる立原。
こっちはとりあえず大丈夫…けれども問題はあっちの方だ。
必死にこらえてはいるのだろう。
しかし相当頭にきているというのが目に見えて分かる…仕方が無いって分かってるからなんとか抑えられているのだろうけれど。
竹林君には何も教えてない状態だし。
『私は竹林君が戻ってきた方が、有意義に過ごせるものだと思って聞いたんだけど…余計な事言ったんならごめんなさい。人の家庭の事情に口挟むつもりは無いから、もう戻らないのなんて言わないようにする』
「…流石ですね、物わかりの良い方で楽ですよ」
でも一つだけ言わせて、と竹林君を見上げれば、溜息を一つ吐いてからなんですかと聞き返される。
『………私、別に勉強したくてしてきたわけじゃないんだよ』
「「!!!」」
驚いた様子の竹林君にごめん、時間取らせたねと謝ってから、大好きな人の外套の袖を緩く掴む。
元々勉強が好きだったとか、天才的な頭脳を持っていたとかっていうわけじゃあない。
勉強なんてものをしたところで誰に褒められるでもないし、そもそもそんなものをしたところで私を認めてくれるような人なんて存在しなかったのだから。
ただ、それぞれの世界の知識をちゃんと身につけなければまともに生きられなかっただけ。
ちゃんと学ばなくちゃ、自分が苦しい思いをしてしまうから…覚えなければならなかっただけの事。
「あ、の…白石さ……っ」
『行こ、私今日はチョコバナナの気分なの。じゃあまたね竹林君!体調管理だけしっかりね』
ほら、行こ、と中也を急かして腕を引っ張り、無理矢理その場から離れていく。
この人は多分色々と気付いてるから。
だからこんなにも殺気を抑え込むのに必死なんだ。