第3章 新しい仲間と新しい敵と…ⅰ
俺のことが好き。
そう伝えてくるこの少女は、本当に俺の理性をぐらつかせる事が好きなようだ。
出来ることならば今すぐにでも手を出してしまいたい。
しかし、今のやり取りでまた新たに分かってしまった。
こいつは多分、俺が何をしたとしても、絶対に嫌がる素振りを見せない。
何でも受け入れて、何でも大丈夫だって言う。
突然男から、額にとはいえキスされて、怖く思わない女がいるだろうか。
更には、分かっているはずの弱点を、焦れったく弄られ、刺激を与えられ続けて。
相手が俺じゃなかったら、優しいこいつはきっとはねのけることが出来るんだろうが、生憎蝶に力で勝てる数少ない人間の一人な挙句、蝶は本気で俺に懐いてる。
だから、恐らく俺の言う好きの意味だって、何も分からずに受け止めてくれる。
「俺もだ」
蝶の言う好きは、ただ純粋に、俺の事を“中原中也と見て”好きだという事なんだろう。
俺はそれでも構わない。
そうじゃなかったら、歯止めが聞かなくなりそうだから。
俺の想いを正当化する為にも、俺はこいつからの好きという言葉に、蝶から送られた好きの意味の、それ以上でもそれ以下でもない意味を付加させて、自分もそうだと返す。
抑え込まねえと、また混乱させるから。
一人悩ませて、泣かせてしまうから。
額にしただけでも必死な様子の目の前の少女を見ていると、本当に唇は避けてよかったとしみじみ思った。
俺だって男だ。
俺を唯一夢中にさせるこの少女に甘い表情で甘い気持ちを打ち明けられたらたまったもんじゃない。
まだこれから先、本当に好きな奴が出てきた時、こいつが泣かなくて済むように。
俺は、“はじめて”をとってはいけない。
こいつにとっての中原中也として、それ以上にもそれ以下にも、なってはならない。
蝶を抱きとめて、ほんのり鼻を掠めた嫌な匂いにさえ敏感な、こんなに禍々しい男の俺を、押し付けてはいけない。
「……風呂沸かしてくっから、先に入って鯖の匂い落としてこい。」
『え、でも中也さん先に…』
「いいから入ってこいって、あともう二度と鯖の匂いつけて帰ってくんなよ」
『は、はい、?』
風呂に先に入れるのだって、恐らく誰よりも蝶の事を意識しての行動だ。
落ち着け、俺。
俺の中で、蝶はまだ、“女”になられちゃ困るってのに…