第12章 夏の思い出
「チッ、いきなりどうしたってんだ…蝶!!!どこだ!!!」
人混みの中、俺よりも小さなあいつはするすると奥に入り込んでいってしまった。
なんだ、どうした…何かを感じて俺から遠ざかっていったのか?
それとも、また俺が何かをしてしまったのか?
どれだ、あるとすればソラへの嫉妬くらいしか、タイミングを考えれば思いつかねえ…ソラに嫉妬するくらいならいつでもしていておかしくはないだろうに。
それに先程の会話のどこがそんなに気に食わなかったってんだ。
あいつも一応拠点で事情を聞いておかないと心配だから、立原と広津さんと同じ車で乗せて帰ろうとしてたってのに。
命を狙われるだなんて、そんな状態だってのに放っておけるわけが…
「……は?俺、何の心配してんだ?」
なんで、そんな心配をする必要がある。
よくよく考えてみれば、元はといえばあの蝶と芥川が、揃って怪しいと睨んだ相手…蝶に何かしら手を打とうとして動こうとしていたであろう奴。
蝶はそこまで推測していて、そして俺はそれを知らないと思っているはずだ。
あの女が命を狙われていたから…だからそっちにも話を聞きに行こう。
二人で楽しみに来た日にか。
殺されようとしていたから。
ついさっき俺は誰に護られた…誰が目の前で死にかけた。
そうだ、わざわざ俺が自分で行く必要なんかどこにもねえじゃねえか。
さっきの男を連れて近くにいるであろう立原と広津さんにら連絡して連れ帰ってもらうのがいつものやり方だっただろ。
携帯ですぐにまた広津さんに連絡を入れて、人を掻き分けてまた蝶を探して進んでいく。
進んでいく途中に、商品が無くなったりんご飴屋…隣の屋台の男とさっきの子凄かったなあと言っているあたり、蝶が買い占めていきでもしたんだろう。
それならもう少し進んだ先に少し開けたところがあったはずだ。
少しの希望とはやる気持ちを胸に進む……が、何故だ?
一向にそっちに進めねえ。
どころか、寧ろ人混みが多くなっていってるような気さえする。
「あれ、出血やばいんじゃ…っ」
なんだ、事故かなんかでも起きたってのか?
やけにうるせえ人だかり…こっちはそんなもんに構ってられる暇はねえってのに。
「発砲音なんて鳴ってた!?あの子…」
発砲音……そう聞こえたところでようやく人混みを掻き分け、開けたところが目に映った。
「背中撃たれたって…」