第12章 夏の思い出
かなり奥まで進んだところにあったベンチに腰掛け、大量の飴の入った袋を隣に置き、ただひたすらに食べ進める。
いいもん別に、私が気分を変えれば済む話。
八つ当たりをしなかったら丸く収まるだけの話。
『…………いいもん、別に』
ポツリ、呟いたときだった。
「あ、蝶ちゃんいた!!浴衣着て可愛くなってたから全然分からなかったよ!来てよかったあ…」
「おやおや、こんなところで一人でその……『飴』飴を独り占めして食べているかわい子ちゃんは、ひょっとしてうちの『人違いです』谷崎君の時と違いすぎない!!?」
谷崎さんと太宰さんの声が聞こえ、そちらを向くと二人以外にも国木田さんと乱歩さんと与謝野先生がそこにいた。
敦さんと賢治さんはナオミさんに連れられて屋台を連れ回されているらしい。
『…なんで皆さんこんなところに?りんご飴いります?』
「いや、りんご飴はいいんだが……あんた、今一人かい?危ないんじゃないの、護衛もなしに」
「蝶ちゃんが皆にも祭に来てほしそうにしていたのを伝えたら、皆来ちゃったんだよ。社長はお茶飲みに行ってる」
『護衛とかなくたって自分で何とかできますもん、何かあったって自己責任でいいじゃないですかもう………』
私の覇気のない返しにん?と顔を覗き込んだり首を傾げたりする皆。
するとそこに、探偵社の皆以外の声が聞こえ始める。
「あ、やっぱり蝶ちゃんまだいた…って、え?その人達……」
「え、蝶ちゃん大丈夫だったの!?中也さんは!!?」
酷く驚いた様子のカルマ君の声に、ビクリと肩が震えた。
『カルマく…』
「え……ちょっ、今度は何!?中也さんに何かされた??」
『違うの…っ、何にもされてないのッ』
じんわりと熱くなる目元の水分を腕で拭っていると、一斉にギョッとした目で私を見始める。
「し、白石!?俺か!?俺が何か『国木田さんは今来たばっかじゃないですかぁ!!』す、すまん…!!」
「なんか分かんないけどとりあえずその手と口は止めよう!?りんご飴すごい勢いで食べすぎてて心配だから!!」
カルマ君の声に再びピタリと止まる。
心配だって…
命は大事…一度しかない命はもっと大事。
こんな考えが嫌で嫌で仕方がない。
こんな考えを持ってしまう自分が、どうしようもなく嫌いになる。
中也さんって、いつの間にあんなに甘い人になっちゃってたの