第12章 夏の思い出
「ひ、広津さんはやっぱ大人だった…じゃねえ!!蝶、ソラの件はどうするよ?あいつが狙われてたってんなら、本人にも話を……どうした」
『別に…聞きに行ってもいいとは思いますよ。私はさっきりんご飴の美味しさに目覚めちゃったんで、いっぱい買い占めて後から合流しますね』
浴衣の裾に少し着いた土を手ではらってからゆっくり立ち上がって、無理矢理中也さんの腕から抜け出した。
「!?お、おい!まだ一人で動いたら…っ、蝶!!」
人混みの中に無理矢理混ざりこんで、屋台の方に進んでいく。
別にいい。
仕方の無いこと、私のためでもあること。
だけどなんだろうな……折角の二人で来たお祭だったのに、今日は色んな事に巻き込まれてばっかりじゃない。
名前がそうだから仕方ないし、結局は一周まわって私のためにもなる事だって考えてるのかもしれないけれど
『…………っ、りんご飴と姫りんご飴…とぶどう飴』
「お、三つもいけるのかいお嬢ちゃん!じゃあ好きなのを選んで『三つじゃなくて、あるだけ全部』よっし、あるだけ全……ん?全部?」
『ここにあるのぜーんぶ!!!下さい!!!』
ちょうどの料金になるようお金を出すと、本当に大丈夫かいと心配されつつも大きな袋に順番にいれていってもらえた。
周りの目なんて気にするものですか、こんなのやけ食いする以外にないでしょ。
「ま、まいどあり…!!」
屋台のおじさんに一礼してから、不貞腐れたようにりんご飴を食べ始める。
あのまんま中也さんと一緒にいて不機嫌なとこ見せるよりも全然いい。
私以外の女の人の名前を呼ぶだなんて、滅多にない事なのに。
いつの間に、名前で呼ぶようになんてなっちゃったのよ。
私が知らない間に、仲良くでもなっちゃった?
私は黒だって睨んでるあの人に、誘惑でもされてちょっと気を許しちゃった?
命を狙われてたから何よ、狙われてるからなんだっていうのよ。
そんなのこの業界なら自己責任でいいじゃない…なんで、ちょっと心配そうな顔してたのよ。
知ってるよ、中也さんは優しいもんね、仕方ない。
気付いてないもん、あのわざとらしさに…これも仕方ない。
なんて馬鹿げた理由だろう、あの人は分かってないから仕方が無いだけなのに。
そんな人の心配なんてしないで一緒にいてよ、なんて。
なんて子供みたいな……独りよがりなやきもちなのだろう。