第12章 夏の思い出
「ははっ、天下の蝶さんは相当な純情乙女らしい」
『い、意味分かんない…』
立原に至っては二枚ほど写真を撮られた。
何なのよいったい、しかも角度的に中也さんがメインで写ったんでしょそれ?私に寄越しなさいよ。
と、ここである事に気が付いた。
『…中也さんは着ないの?浴衣』
「俺?着れる気がしねえんだが…まあ紅葉の姐さんにもらってた分はいえにあんぞ」
『着よう?私が着付けてあげる』
私の声に、え、蝶着付けとか出来んのか!?と盛大に驚いてくれる立原。
『失礼ね、浴衣なんて気慣れてるわよ……髪がちょっと慣れないだけで』
最後に思わず照れてしまった。
すぐに中也さんの手を引いて寝室に入り、中也さんに浴衣を着付ける。
ワインレッドで、裾にかけて青紫色のグラデーションになっている浴衣。
男の人のものにしては刺繍が凝っていて、流石は紅葉さんの選んだものだと思わせられる程中也さんに似合いそう。
青紫色の帯を締めて、少し明るめのトーンで同じ色の上着を羽織り、中也さんはまたいつもの帽子を頭を被った。
『……中也さんは帽子があったほうがなんか安心しますね』
「流石にお前に貰ったやつを被ってって汚したらあれだから、仕事用のにするけどな」
『ふふっ、じゃあそろそろ外に「待てよ」……っと、?』
中也さんに手首を軽く掴まれたかと思うと、ズイ、と腰を屈めて顔を目の前まで寄せられる。
『………っ、だから、近いのは…「感想は?」か、感想って…』
「俺には一言も無しかよ」
『だ、だってそんな……まだあんまり直視出来てなくて…』
「……何だそれ、本当照れ屋だなお前。そんなに好きかよ」
中也さんのからかうような声に顔を真っ赤にしながらコク、と頷くと、中也さんの方が目を見開いた。
『か、っこい……です』
「…っし、好きなだけ甘いもんでもなんでも食え、勝負なんざ関係ねえ、もう全部奢りだ」
『え……いや、勝負してからって「奢りだ奢り」だ、だから…』
「じゃあ勝負な。ちょっとばかしハンデでもやろうかと思ってたが全力で叩き潰しに行ってやる。絶対ぇ奢る」
なんでこんなやる気になってんだろこの人。
『は、はあ…』
「……っと、手袋は…外していって欲しいかい?お姫さん」
『!!…す、好きにしていってください』
目を逸らすと了解、と言いながら手袋を外して上着にしまった。