第12章 夏の思い出
「あ、ああ悪い…気慣れてんのなお前。……正直子供に見えなかったわ、見惚れてた」
片手で顔を押さえてゴニョゴニョと言う中也さん。
珍しく顔まで赤くしている。
『…ほら、着付けてる間のことはともかく完成図!』
「!そうだな………ナンパされっかもしんねえから俺から離れんなよ」
『ま、またそういう事言う…っ』
今度はこちらが照れさせられる番だった。
……見惚れてたとか子供に見えなかったとかなんて言われて、こっちは嬉しさを隠すのに必死なのに。
部屋から出て見ると妙な視線を感じたため、そちらに向くと立原がまた間抜けな顔をしてこちらを見ていた。
『?……立原?』
「あ?…ってお前蝶だよな。そうだ、蝶だお前は」
『何言ってんの、遂に本物の馬鹿になった?』
「蝶だなお前は!分かった、とりあえずそのふざけた口を……っ、ジイさん、もう俺色々とダメだ。反論すら出来ねえ」
苦笑いになる広津さんの顔を見て首を傾げていれば、立原も伝染したものだと一言。
『広津さん、どうですか?浴衣なんて久々…』
クルリと少しはしゃいでいると微笑ましく似合ってるよと言ってもらえた。
「立原は蝶ちゃんが似合っていて普段より可愛くなってるから、何も反論も出来ないらしい」
『へ?』
「ちょ、ジイさん何言って…っ!!……似合ってる」
『!……えへへ、ありがとう』
思わず頬が緩んではにかむと、すぐに立原は後ろを向いて顔を背けてしまった。
「蝶、お前こっちは慣れてねえのかよ?」
中也さんに呼ばれて振り向くと、手に持っていたのは…髪飾り。
『え、それ…』
と、ヘアアイロン。
今度こそしてやるからと促されてそちらに行くと、サイドで上げてる髪をくるくると巻き始める。
髪の毛弄るのは相変わらず上手いんだ、なんて感心していると、トップの方を軽くシニヨンにされ、そこに髪飾りをとめられた。
普段から割と凝った髪型にされていたから、すぐになんだか華やかな髪型になって、ちょっと気恥ずかしくなってくる。
「こんなもんだろ」
『……っ、中也さんから離れないようにします』
「ああ?…そんな恥ずかしがんなって、似合ってんのに」
『だって慣れないこういうの…』
私の声になんだなんだと立原と広津さんが駆けつけてきたため、慌てて中也さんの背中に隠れて片目だけを覗かせた。
『あ、あんま見ないで…』