第12章 夏の思い出
着付けてやっから羽織ってこいと言われて、自分の部屋に入って服を脱ぐ。
浴衣のセットを見るも、流石の中也さんでもやはりここまでは気が付かなかったらしい。
自身のクローゼットを開いて、かなり久々になるそれを付け、浴衣を羽織って前を閉める。
そして呼んだ方が良いのかと思い、羽織れましたと中也さんを呼ぶと、入ってきたはいいものの目を見開いて固まってしまった。
「お前……胸は?」
『見て早々それって…浴衣を着る時にあのまんまじゃあすぐに崩れちゃいますから。サラシ巻かなきゃ駄目ですよ…持っててよかった』
「………!す、すまねえ…左右はこれで……合ってんな」
中也さんは何故かハッとしてから私の元に来て、腰紐を持って着付けを始める。
のだけれど。
「ん?ここで止めてから回して…いや、こっちで締めて……あ?」
ちんぷんかんぷんになっているご様子だ。
普段から洋装ばかりしてるのに、かっこつけようと調べていたのだろうか。
…黒の着物なんて、着慣れてるのに。
貸してくださいと腰紐を受け取って、一度前を開けてから綺麗にしめ直す。
「!?蝶、お前早く閉じ……び、ビビった…」
するすると腰紐を回してキュ、と締め、手際良く浴衣の長さを調整する。
私が着れるサイズでよくこんな大人っぽい柄あったな…探すの大変だったでしょうに。
やはり裾はかなり長いため、こんな事は慣れてもいない中也さんには出来ないだろう。
『中也さん、なんで浴衣…地色が黒いの選んだんです?帯も紫だしすっごい好きなのは好きなんですけど』
「お前が好きそうだし顔が映えそうだったからな」
『!……そうですか』
クスリと微笑んでから懐かしの要領で裾上げを終え、グラデーションのかかっている紫色の半幅帯を受け取ってそれをまた巻き付ける。
長さもあるし素材感もいいから、姿見を見ながら都結びにしようと、こちらも手際良く進めていく。
静かな空間で手だけを動かしてすぐに帯まで締め、帯締め…飾り紐を花結びにして整える。
こんなものかと姿見で一通り確認してから、再び中也さんの方を向いた。
『中也さん、多分これで着れてると思うんですけど、どこか変なところ…あ、前板入れてなかった。……っと、どうで…中也さん?』
また目を丸くしたまま、呆然と中也さんはこちらを見る。
おーい?と手を振るとようやく気が付いてくれた。