第12章 夏の思い出
「ったく、なんでこんな無防備に寝れっかなこいつは」
「なんだかんだ言いつつも結局来るあたりが立原らしい」
「ジイさん冗談はやめてくれよ、俺は別にこいつのためとかじゃなくて「自分から名乗り出て中原君の家まで背負ってきたわけだが?」いつもの事だろうがこんくらい!!!」
うるさい…すっごいうるさい声が聞こえる。
なんていうかこう…
「第一俺は朝だけって言ってたのに寝やがるとか……っ、ああもうほんっと可愛くねえ!!なんでこんな無防備なんだよこいつは!!?」
『…………ッ、立原っぽくて腹立つ声…!!!』
「ほら見ろ、寝言でも俺に喧嘩売ってきやが『へ…っ?』……は?」
はた、と半目で薄く目を開けると、すぐに温かみを感じ始めた。
悔しいけれど大きい背中…そして小憎たらしいけど嫌いじゃない声。
『…立原ぁ?なんで?』
「てめぇが自分のデスクで寝ちまったけど幹部と約束あるからって呼ばれたんだっつの!!「呼ばれたのは一人だけだが」ちょっとジイさん黙っててくれねえか」
『へえ…立原と広津さんも来れたらいいのになぁ』
小さな呟きに、何か言ったか?と返されたため、ううん、何もと首を振った。
中也さんの部屋の扉の前で降ろされて、インターフォンを押すとガチャリと扉が開く。
中からはそれはそれは嬉しそうな顔をした中也さんが……あれ、なんで今日こんな嬉しそうな顔してんのこの人。
「蝶、やっと帰ってきた……ってなんだ、立原もいるのか。広津さんも、二人共上がってってくれよ!いいの見つかったんだ!!」
少しはしゃいだ様子の中也さん。
いや、本当に何事?
「あ、いいのあったんすか?お邪魔します!」
「ほう、やはり黒かね?」
『え、何の話ですか中也さん?』
ぞろぞろと家に上がっていって、まあまあ待ってろってと言いながら中也さんは寝室から何かを持ってくる。
そう、何か…いいものとやら。
「探してたんだよいいのねえか!」
『………黒地の、浴衣…?』
「これはいい」
「似合いそうだな」
中也さんが手に持っていたのは地色が黒の浴衣と紫色がメインの帯。
…まさか今日、朝からこれ探しに行ってたの?
「好きそうなやつで似合いそうだと思ったんだよ…ほら、着付けてやっからこっち来…羽織るとこまで自分でするな?」
『!は、はい…ありがとう、ございます』