第12章 夏の思い出
『く、椚ヶ丘ですよ?私、能力使わないんですよ??』
「大丈夫だよ、電車あるから。つか無くても俺が送ってく、意地でも祭りは行かせてやっから」
『で、でも考えてたとか…なんでそんな事まで』
なんでって、と電話越しにも分かるくらいにキョト、とした中也さんの声。
間を空けることなく、スムーズに紡がれる言葉。
「今年は全部回ろうっつっただろが」
本っ当、バカにも程がある。
言われなかったら何も気にしたりなんてしなかったのに。
なんでこんなにしてくれちゃうの、この人は。
『…私バカにも程がありますよ中也さん。私されてばっかりで何も出来てないのに』
「お前は普段から飯作ってくれたり俺の無茶ぶりに答えてくれたりしてんだろうが。可愛いとこ見せてくれるだけで十分だよ、寧ろ俺の方がしてもらってばかりだ」
『い、いや、そんなのは「そんな事してくれる奴いなかったぞ?俺みたいな奴に」……それなら尚更私の方が…』
ずるい言い回し。
暗くなる発言をしかけてやめた。
私なんて、貴方からどれだけの事をしてきてもらったと思っているんだ。
「ああそうだな。だからそのお礼に、俺に甘えに来て可愛がられてろ。それが俺への一番の褒美だよ」
中也さんの言葉に何も言えなくなる。
こんなにしてもらってるのに…
「まあでも、今電話かけられてお前の方から言ってきてくれたのは嬉しかったなァ?祭りで担任に何か奢ってやるか」
『嬉し……?』
「ん?…ああ、嬉しい。デートのお誘いしてくれたみてぇだしな。お前からのそういうお願い以上に嬉しいもんなんか滅多にねえよ」
『!!………じゃ、じゃあ約束ね?早く帰るから、約束ね!』
おう、約束なと優しめの声で返される。
不思議、中也さんが嬉しいって言ってくれると、私の方まで嬉しくなる。
嬉しい…中也さんに喜んでもらえるのが嬉しい。
『りんご飴あるかな〜…っ!夏祭りだから屋台で中也さんにいっぱい景品取ってプレゼントするね!!』
「はは、いいけどそれなら俺はその倍取ってお前にやるよ。あと死ぬ程屋台の甘いもん食わせてやる」
『私もお金持っていきますー、奢るの禁止』
「じゃあ俺に景品数勝てたら言う事聞いてやるよ。異能も使わねえからハンデは無しだ」
中也さんの声に頬が緩む。
『絶対ですよ!』
「絶対な。じゃ、早く仕事終わらせてこい」
『はい!』