第12章 夏の思い出
「うん、中々いい無茶ぶりじゃあないか!ここから離れた椚ヶ丘の夏祭りに行きたい、しかも今晩!そしてあいつとも一緒にいたいだなんて」
『で、でもそんなのとてもじゃないけど言えな…い、です』
「そらを言えるのが子供の特権さ。我儘言えないだなんて子供以下だよ?子供以下……君がそう思ってるレベルのものは、大概周りからしてみれば全然可愛いものなんだから。ほら、電話してみるしてみる!資料は私が纏めておいてあげるから!」
太宰さんにサッと資料を取られてしまい、ニッコリと笑われた。
電話……してもいいのかな。
こんな事のために、わざわざ中也さんを付き合わせるの?
恐る恐る通話ボタンを押して、中也さんに電話をかけた。
「蝶か…どうした?」
『!ち、中也さん……そ、そのっ…今、大丈夫です、か!』
なんだよんな焦って…と言いつつも、忙しいのはお前の方だろ、大丈夫だよ暇してたからと返される。
少し騒がしい気がするからどこかのショッピングモールにでもいるのだろうか、人の声が結構聞こえる。
「で、どうした?遠慮しなくてもいいから言ってみろ」
『……遠慮したら「怒る」ですよね』
中也さんからの相変わらずの返しに一度深く呼吸をしてから、意を決して話し始めた。
『そ、その…さっき殺せんせーが探偵社の事務所に来てですね?その……椚ヶ丘で今晩夏祭りがあるから、来ないかって』
「ああ、それなら行けばいいじゃねえか」
『そうですよね、やっぱり中也さんとこに…………え?』
え?じゃねえよ、行けばいいっつってんだろ、と返され、更に間抜けな声が出る。
あれ?待って、普通驚かない?
今日いきなりだよ?
『いや、あの中也さん?今日は早めに帰ってこいって…』
「あ?……ああ、あれか。お前が変な勘違いしたまんま出て行こうとしやがるから言えなかったんだよ…今晩椚ヶ丘で夏祭りがあるらしいから、仕事終わりでもよければ一緒に行かねえかって」
『へ、っ?…ええ!!?なんで中也さんそんな事考えて!?』
「お前が行きたいっつってたけどことごとく仕事やらなんやらで行けてなかったろ?だから行けそうなところ探してたら椚ヶ丘が残ってたし、あそこならカルマ達も近ぇだろうからお前も楽しいんじゃねえかと思ってたんだよ」
まさかのその予定だった…
予想してなかった、こんな事。
「後で説明する手間が省けたな」