第12章 夏の思い出
『おはようございます…って太宰さんだけ?』
「!!その声は蝶ちゃんじゃあないか!!?久しぶり、これから三回ほど心中『お久しぶりですね』辛辣!!!……って、え?」
『?だから、お久しぶりですねって』
ここ一週間程は連日何故か休みをいただいて、探偵社の方には全く来てはいなかった。
だから久しぶりって返したのに、目を点にして挙句の果てにはそれを腕で擦って二度見してくる太宰さん。
「…蝶ちゃん?いつもならそこは、お断りしますとかまさか太宰さんなんかと出会ってしまうだなんてとか私はお会いしたくなかったですとかじゃ『え、その方がよかったんです?』いやいや全然!!?」
『立原といい太宰さんといい、なんでそんなびっくりするんだろ…』
「君が普段から言動まで素直だなんて衝撃的にも程があるよ!ましてや私相手にだよ!?恒例の掛け合いにすらだよ!!?」
『えっ、素直なんですかこれ?中也さん怖』
中也さんの名前にピクリと反応して、太宰さんがこちらにずい、と近寄ってきた。
なんですか?と聞いてみるも、じぃっと見つめられるばかり。
『…っ、は、恥ずかしいんであんまり見ないでください』
「!……え、ちょっと私本当に今怖いのだけれど。あのチビに何されて、どういうことがあってここまで仕込まれたの蝶ちゃん?何、私への新手の嫌がらせか?寧ろ可愛くて好みなんだけど」
『そ、そういうのいいですから…中也さんからのじゃないと受け付けてないんで……って太宰さん!!?』
フラッと目に片腕を当てながらその場に倒れてしまった太宰さん。
流石に音もよく響いたために顔を覗き込むも、どこを見ているのやら目の焦点が合っていないようだ。
まって、これ本当に大丈夫?
「…………中也に、何を仕込まれたの?」
『え…何って、別に大したことは何も「いいから」す、素直にならなきゃ意地悪するって……』
「…あいつのくせに、なんていい行いなんだ……っ!!自分だけ人より何倍もいい思いして…!!!お兄さんは許しませんよ!!?」
『と、とりあえず意味わかんないんで箕浦さんから連絡来るまでパソコン弄ってますね?私今日それしか仕事無かったはず……壊した分のは作り終わったし、どんなの作ろうかな』
太宰さんを放置して自身のデスクに座る。
ああ、ここに座るのもこれからまた暫く無いのか。
「し、塩対応はまああるんだ」