第11章 縁というもの
翌日。
昨日はあれからちゃんと紅茶を美味しくいただいてからしっかり寝た。
朝ご飯を食べながら、口の中の違和感にすぐに気が付く。
『……痛くない』
「あ?何が」
『舌、全然痛くないの。昨日の夜に火傷したばっかりなのに』
すると目の前で美味しそうにご飯を食べる中也さんが嬉しそうな顔をして、どうだと言わんばかりにふふん、と目を細める。
「はは、そうかそうか、そりゃよかった」
『中也さん、なんで舌の火傷の早い緩和法なんて知ってたの??』
「そんなもんお前が小せえ時からちょこちょこ調べててだな…」
『凄い、中也さん本当にお母さんみたい』
母親ってお前……と項垂れられるも、素直に凄いと実感した。
あの地味にヒリヒリするのが残る火傷が全く痛くないんだもん、たまたま砂糖とか蜂蜜とかあったからかもだけど、こんな緩和法があっただなんて思わなかった。
凄い凄いと目を輝かせていると、ズイ、と中也さんが顔を近づける。
『?…どうしたんです?』
「……俺は恋人なんですが、その辺分かってくれてますかね蝶さん?」
『分かってますよ?』
何言ってるんですかとキョトンとして返すと更に項垂れられる。
え、何。
何かしたかな私。
「あー、うん。いいわ、お前の親なら悪くはねえ…」
『……じゃあお礼に、中也さんの方が小さくなっちゃったら、今度は私が中也さんの親になってあげますね!』
へにゃりと笑ってそう言うと、今度は中也さんの方が目を丸くして私を見る。
どころか驚いたように目を見開いていて、言葉が紡げないのか口をぽかんと薄く開いている様子。
流石に様子がおかしいなと思いつつ中也さん?と中也さんの目の前でおーいと手を振ると、ハッとしたように私と目を合わせてくれた。
「…悪い、ちょっと頭おかしくなってたわ。お前が俺の親ぁ?なれんのかよそんなもんに」
『私は元々歳上ですー…ていうか中也さんが頭おかしいのって元からじゃ「なんか言ったか」なんでもないよ』
すぐに返したものの、やはり先程のリアクションが気になってチラチラと中也さんの方を見てしまう。
少しすると中也さんははぁ、と息を一つ吐いて、口を開いた。
「俺もまあ、お前程じゃねえにしても親なんつーもんとは縁がなかった人間だからな。ただ………一人じゃねえっていいもんだなと思っただけだよ」
『!!…うんっ、一緒だよ!』