第11章 縁というもの
「苗字って…ああ、成程……それはなんというかまあ、蝶ちゃんらしい」
「苗字?「立原、少し黙っていなさい」え、ジイさん?」
『…だ……って、そ、れはその…ッ、か、考えちゃうじゃないですかぁあ……っ!!』
何も言い返せなくて半泣きになった。
中也さんの苗字に憧れる?当たり前じゃないですか、好きな人と同じ苗字に憧れるのなんて。
その名前になったらどんな感じかなって想像くらい…する子いるし。
いるもん。
いるよね?
「あー面白ぇ、マジで可愛い…なんでこんなに純情な女に育ってくれたかねえ。そうかそうか、そんなに俺の苗字が欲しいか」
中也さんは腰を屈めて両手で私の頭をうりうりと撫で始め、嬉しそう…というよりは自分のペットを可愛がるような顔をして私をあやし始める。
悔しい、否定もできないし反論も出来ない。
何が純情よ、なんでって気になるんなら親の顔を見せてやりた……親この人じゃん…!
『ッ、や…っ、い、じめないで……』
「そういう事すっから余計可愛いんだよお前、分かってんのか?分かってやってんのかもしかして?」
『!!?知らないそんなのっ、ていうかさっきから言い過「苗字、欲しいか?」〜〜〜!!!』
完敗だ。
勝てっこない、こんな中也さん。
ボロを出した私のミスだ。
「え、っと…?」
「ん?……ああ、分からなかったか立原?こいつ根がいい子で偉い純情な乙女だからな、可愛らしいこと考えてやがったんだよ」
「蝶が偉い子だってのはよく分かってますが『子供扱いしないで立原のくせにっ!!』何でだよ!!?」
中也さんに顔を向けると更に頭を撫でられたため、満更でもなくなってきて抵抗さえも出来なくなった。
首領と広津さんは微笑ましそうに目線を向けている。
「はは、そうかっかすんなって。怒ったところで可愛いだけだからお前……こいつさっき、頭ん中で自分の苗字を俺のに置き換えて想像してたんだよ。可愛らしいもんだろ本当に…なあ?未来の中原蝶さん」
『!!!!?…っ、だ、めッ…な、なんで今そんな……っ!?』
「おーおー、茹で蛸みてえになってやがる。いい子だぞ、本当に可愛い奴だ」
最早何も考えられなくなって、結局中也さんに抱きついて顔を埋めた。
無理、この人強すぎる、勝てない。
「本当、可愛らしい」
「中原君ももう慣れたものだね」
「可愛いの本当の意味を理解した」