第11章 縁というもの
中也さんから発せられた意外すぎる言葉に目を丸くする。
嘘、あの喧嘩大好き仕事人間の中也さんが?
この人自分の仕事と結婚してるような人だと思ってたのに?
『も、もらうことにしたって…「夏休み」そ、それもらうためにまたいっぱい詰めたんじゃ……っ』
「いいや?今日お前が寝てる間に、蝶も帰ってきたんだから夏休みくらい取ればいいじゃねえかって。これまで取ってきてなかった分、他よりも長めにくれるらしい」
『な、にそのあの人らしい提案…』
中也さんはで?と私に微笑みかけて、返事を待つ。
してみたかった事…いきなり聞かれても、正直なところ分からないというのが本音だ。
日本の夏に何があるのかを全く知らないわけではないのだけれど、情報ばかりが多くてどれもちゃんと知らないから。
『……は、花火…しか分からない。他、よく分からないから』
「お前、花火は見に行ったことあんのか?」
『何回かなら。サプライズで、したのとされたのと』
「サプライズで花火とかすげぇな…他のそのよく分からねえってのも言ってみろ。折角の休みなんだ」
よく分からないもの…興味があるにはあったけれど、結局行けずに知らないふりをしてきたもの。
中也さんから聞いてくるだなんて思ってもみなかった。
私がさっき、親とそういう事をしてみたかっただなんて口にしたから、考え込ませてしまったのだろうか。
『…中也さん、そんな無理して聞かなくていいよ?私、本当に中也さんといれれば「いいから、遠慮すんな」……おっきいテーマパークとか、入れるか分かんないけど海、とか…後スイーツ巡りと、お祭り行ってみたい』
「スイーツ巡りはまあいつでも付いてってやるとして…そんだけでいいのか?他にもあるなら言っといた方がいいぞ」
『じゃ、じゃああと赤レンガ倉庫のカフェ巡りと、スカイガーデンから夜景見たいのと…』
思い付くものを挙げていくのに、中也さんはまたもやクスリと笑う。
「お前、それじゃあ横浜ばっかりじゃねえか。他は?」
『だ、だって横浜以外にあんまり知らない…後は……スイーツ巡り』
「結局そこかやっぱ」
頬が緩んで顔がにやける。
中也さんに甘えつくように少し腕に力を入れると、よし分かったと一言言って、中也さんは私とおでこをくっつける。
「蝶、それ…今年全部行こう」
『へ……えっ、ぜ、んぶ…?って本気ですか!!?』