第11章 縁というもの
「…蝶、とりあえずどっか強く打ったか」
『!い、いえ、一応咄嗟に手を付いてたんで強くは…』
「そうか、ならいい……っと、」
膝を立てて座り込んでいたのがいけなかったのだろうか。
中也さんは私の背中と膝裏に腕を回して、横抱きにしたまま持ち上げて歩き始めた。
突然地面からそこまで高くなったから反射的に中也さんにしがみつくも、動揺もせずに歩き続けられ、リビングの椅子に座らされる。
『ち、中也さん…ッ、なんで……』
「疲れてんだろ。俺が喫茶店に最初に言った時はいなかったみてえだし、その足で攻撃までして外歩き回ってたんなら相当疲れが溜まっててもおかしくねえ」
「!最初って、じゃああれ二回目…!?」
「そうだ。メールの文面的にお前、完全に俺にバレねえようなルートを移動してるとも思ってたし…探偵社で話を聞いてみようと思ったらあの探偵野郎がいてな。あれぐらいの時間に行ってみろって言われたんだよ」
多分、乱歩さんだ。
そんなに探し回ってくれてたの?
探偵社って、結構あの喫茶店からだと離れたところにあるはずなのに……そんなところを、走ってくれてたの?
「だから無理すんなっつったのに」
『ご、ごめんなさい…』
謝んなくてもいい、と頭を再び撫でられ、中也さんの方に顔を向ける。
すると少しずつニヤリとしたような顔になっていって、私のすぐそこにお箸とスプーンが置かれた。
何だろうと思って、手をかけさせてしまった罪悪感から中也さんを見つめていると、楽しそうな顔で……鬼のような笑顔で私の頭に置いた手をピタッと止める。
「蝶はいい子だからな、許してやるよ…これ、ちゃんと全部食ったらな」
『え゛っ』
思わず苦い声が出た。
中也さんは容赦無く私のお皿におかずをどんどん盛り付けていく。
この人許してやるとか言ってるけど絶対根に持ってるよ。
いつもより量多いもん、ただでさえいっぱい盛るのに今日の量おかしいもん。
『い、いつも頑張って食べてるよ…っ?き、今日も中也さんのお弁当だったから、頑張って全部食べてきた、よ?』
「おお、偉いじゃねえか!ならもうちょっと頑張ってみような、食べきったらもっと褒めてやる」
『で、でもこ「いい子の蝶なら食べれるよな。食べるよな」……は、はいぃ…ッ!!』
半泣きで無理矢理言わされ、中也さんの手がよしよしと撫でてから離れた。
鬼だこの人。