第11章 縁というもの
「うん。まあ不幸中の幸いというか、あの子のデータなんてものはこの世に存在していないに等しいものだからね。戸籍や色んな組織におけるそういう証拠が無いのはいい事だ」
「名前しか記されていないでしょうからね」
「ああ。だからこそ、相手がそこまで調べれば必ず警戒するだろうし…頼んだよ」
まあそのための夏休みでもあるからねと首領。
成程、安全性に少し疑惑の生じたマフィアよりも外の方が、という事か。
メインは楽しませてやる事だろうが、本当に首領命令というやつなのだろう。
俺といれば恐らく大丈夫だから…狙われるのは、あいつが一人の時だから。
マフィアの中でもある程度の警戒心というものはあって、話の中に個人の所有する能力を出したり誰かに教えたりしないというものは暗黙のルールだ。
よっぽど親しい、それもある程度の地位を持つ奴らの間でしか、それは許されない話。
部下の中にも蝶の能力を少し知っている奴はいるが、そこから漏れる心配は無い。
白石蝶という人間は、この組織において絶対的な支持を得ているのと同時に、位置づけ的には俺なんかよりも上…組織のNo.2のような人間だ。
人望もあるし、あいつの強さは俺のせいもあるがよく知れ渡っている。
あいつの事を知らねえ奴に何かを聞かれても、絶対にそれを漏らされることは無い。
「はい。それなら、執務室の解除キーも使う度に変えることにします」
「そうだね、そこまでしてくれると安心だ。警戒態勢の許可を出そう…君が中にいない時にはあれしか宛にならないからね」
「はは、ランダム設定に切り替えておきますよ……あとは認証システムを全部起動させておきますね」
「一応警備は付けているけどその方が安心だね、うん。あとはまあ上手くやってくれたまえ、何もなければそれがいいが、何かあったらすぐに連絡を…通知用の無線を渡しておいた方がいいね」
首領からすぐに無線機を手渡され、それを懐にしまう。
後でチェーンか何かで固定しておこう。
「という事だから、休暇中はとりあえず大丈夫だと思うけど、それ以外は少し警戒するのを頭の隅にでもおいておいてね。あとこれ、絶対蝶ちゃんにバラさないように」
「バラしませんよ、大人が護ってやらねえでどうするんですか」
「う、うん。でもバレたら僕蝶ちゃんに嫌われちゃうだろうからさぁ」
「そこまではいかないでしょうけど…」