第11章 縁というもの
「寝てしまったか、座っておいてもらって正解だったね」
「どうします、今聞く方が都合がよろしければ「ああ、そんな野暮なことはしないであげなさい、またでいいから」…では明日にでも」
風邪をひかねえようにもう一度蝶にちゃんと外套を掛け直してから、首領の前に再び戻る。
すると話を切り替えるのか、首領は少し目を鋭くさせた。
「……蝶ちゃんが眠っているなら丁度いい。あの子の寝起きはかなり悪いから」
「ひ、否定は出来ませんが…で、俺にいったい何の話が?」
「彼女には絶対に言うなと言われたんだが、それでまた無茶しちゃダメだからね?…今日紹介した子達に何かを感じたら、すぐに報告を頼む」
首領からの言葉に眉をひそめる。
どういう事だ、何も問題がないから秘書に置いたんじゃなかったのか。
それに何よりも、俺のそばにこれからいるような奴に何かを感じたらだなんて。
「どういう事です?何かを感じたらって…」
「うん、僕もなんにも感じなかったんだけど…独自の嗅覚というか、感覚というか、才能なのかね?蝶ちゃん……だけじゃなくて、芥川君までもが警戒してくれと言うのだよ」
「!確かに芥川はあんな調子でしたが…警戒?俺達みたいな幹部格の人間の元にいるのに、ですか?」
警戒してくれと言った…それは芥川と蝶が、俺が席を外した時に話していた事らしい。
何故だ?確かに元々暗殺者だったとはいえ、この組織の勢力の核となる人間がそばについてるってのに。
おかしな動きでもみせりゃあすぐにでも始末出来るってのに。
「そうだ。何か、言い知れないものを感じ取っているらしい…今日も危うく殺しかけていただろう。わざとらしい、怪しい、必ず裏がある…だから監視を頼みたい、と彼女の方からお願いしてきたんだよ。君には絶対に悟らせないようにって」
「蝶がそこまで言うって、それなら…」
「だが組織の立て直しもあるだろうからと、こちらの事まで考慮してくれた上のお願いだ。後、中原君は色々と分かりやすいからと」
分かりやすいだなんて、そんなものは話にもよる。
蝶だからこそだいたい見抜かれてしまいはするものの、こっちだってプロのマフィアだ。
そんなヘマをするつもりはねぇ。
「だけど、僕は君を心配しすぎている蝶ちゃんの方も心配なんだよ。どうして僕達が何もあの子達から感じ取れないのかが怖くて怖くて仕方が無いと言っていた」