第11章 縁というもの
「折角蝶ちゃんが君と出会って恋人同士になれたんだ、楽しませてあげるのが男性というものだよ」
「で、ですがあいつが行きたがってるんなら何かしらそういう誘導があってもおかしくないような…ほら、言っても子供なところも多いですし」
分かりやすい。
本当に、したい事なんかがあると分かりやすいものなのだ、蝶は。
それは首領も分かっているだろうと思って口にしてみると、またもや溜息を漏らされた。
「君が仕事を頑張ってくれてるのを分かってて言わないに決まってるでしょう、あの子は言っても大人なんだから」
「……分かってて?」
「中原君、もしかして気付いていなかったのかい!?君が蝶ちゃんとの時間を作るために毎日人より速く仕事を片付けている事なんて、あの子が小さい頃から気付かれてるんだよ!?」
まさかの事実にフリーズする。
かっこ悪ぃ、そんな事を蝶に悟らせるつもりなんざなかったっつうのに。
「それでただでさえ頑張ってくれてるんだって分かってるのに、あんな性格の蝶ちゃんが君にそんな事を言い出せると思うかい…流石に鈍すぎるのも罪だと思うよ、中原君」
「お、俺は気付かれてないものだと…」
「気付かれてるに決まってるだろう、彼女は大人な上に世界最高峰の殺し屋さ…それに君と出会うまで、恐らく人とそこまで深く関わってこれたことなんてないんだろう?」
蝶がこれまで別の世界でも自分を出しきれずに生きてきたことなんて分かってる。
俺に澪と呼ばれてあれだけ満たされたような顔をしていたんだ…世界を超えてきただなんて話をしたのも俺くらいだったとあいつは言った。
首領の言いたいことは流石の俺でももう分かる。
そうか、蝶は…あいつはこれまで、そういう楽しみを人と味わってこなかった可能性が大いにあるんだ。
自分から言い出せないのも勿論あるだろうが、そもそもそういう楽しみを味わった事がないのなら…まだそういう事を知らねえという可能性が出てきた。
知らないから考える事も出来ねえし、あまり気にも止められない。
知らないから口に出さずにいられるし、俺を優先してもあまりストレスなくいる事が出来る。
……知らねえまんまで、いいのか?
折角普通に学生やってて普通に生活を楽しんでいる今、知らないまま育っていってもいいのか?
「どうする?」
いいわけがない、そこで子供にならせてやれなくてどうすんだ俺。