第11章 縁というもの
「は……、え、夏休みって?」
「君は良くも悪くも仕事人間だからねえ。夏季休暇くらいはあげたかったのに、今まで断られてばかりだっただろう?」
首領の言葉に、幹部に昇進してからというもの、確かに連日の休暇などを引き受けていた記憶がないというに気が付いた。
あの頃は蝶がいなくなってて精神的にもそんな気分にはなれていなかったし、寧ろ仕事をして気分を紛らわせていたのも否めない。
今となっては逆に蝶との時間を作るために仕事を速く片付けるように戻ったのだが。
「今年は蝶ちゃんも学校に行ってるんだし、蝶ちゃんに合わせて休みを取ってあげなさい。他は皆交代で休暇を取るのに、君はここ数年間全然取らせてくれなかったからね」
「…そりゃあ、まああるにはあるでいいでしょうけど……なんで蝶に合わせて?」
「彼女は学校の方でも探偵社の方でも予定があるだろう?」
「それはそうでしょうけど、一緒に住んでるんですし…」
ここまで言うと、遂に首領からはあ、と溜息を漏らされた。
頭を抱えて俺の方を見る。
あれ、俺何か拙いこと言ったかこれ。
「中原君…世間は夏休み、それに蝶ちゃんが折角今学生生活を……これから先でも楽しめるかどうかわからないような時間を過ごしているんだよ?」
「それなら寧ろ俺なんかよりもクラスの奴らとどっかに行った方がいいんじゃないんですか?」
「それもそうだけど…ううん、君は本当にこういう事には鈍いらしい。中原君、それでは君に、夏季休暇と一緒に任務を与えよう」
首領命令だからね、いいよね、と言う首領。
夏季休暇と共に与えられる首領命令というのも何か変な感じはするのだが、一応組織のトップの命令だ。
疑問を持ちつつもはい、と頷いた。
「今年は夏ならではの場所にでも蝶ちゃんを連れて行ってあげなさい。恋人なら、夏休みは二人でそういう所で楽しむものだよ」
「!…夏ならではの場所って……海とかですか?」
「そうそう。それ以外にももっとあるでしょ?プールとかテーマパークとか…それだけに限らずあの子はあんまりそういう所で楽しんだ事はないだろうから、水族館とか映画とか、花火大会なんかもいいんじゃない?」
あとお祭りとかさ
首領が挙げたものは、どれも確かに夜のカップル達の好みそうなものばかり。
生憎女というものと過ごす事のなかった俺にとっては、考えもつかないようなものだった