第11章 縁というもの
蝶に外套を着せて腰を屈め、頭を撫でてやると、目を丸くする蝶。
『…ん』
それから少し顔を赤く染め、蝶はソファーの方に向かっていった。
「相変わらず可愛らしい子だ、見ているだけでも微笑ましいよ」
「蝶は可愛い奴なんで」
「彼女の前でも言うようになった中原君も成長したねえ?」
「…もう隠す必要もないですから」
ちらりとソファーの方に目を向けると、聴こえていたのか俺の外套を頭から被ってソファーに上体を横にならせている蝶。
聴こえていて照れている…いや、今のあいつに限ってそこは可能性が薄いな。
あれは俺の外套を被って嬉しがってる方だ。
なんて愛らしいんだ、今すぐにでも抱いてやりてえ。
「まあ、とりあえず報告ご苦労。結構な量だったと思うんだけど、よく一日で仕上げてきたね?」
「いつもの事じゃないですか、そんなの」
「確かに君の書類仕事の速さには驚かされてばかりだったね…あれかい?今は蝶ちゃんが夏休みだから、こんなに仕事を片付けるスピードが…」
「……まあ、そんなところですかね。それに…」
首領がそれに?と首を傾げて聞き返す。
蝶もいるし、口にしてもいいのかどうか…ちらりともう一度蝶の方を見ると、まあ余程嬉しかったのかこちらの会話は耳に入っていなさそう。
あれはまあ、気にしなくても多分聴いていない。
大丈夫かと勝手に判断して、首領に続きを話す。
「それに何やら、蝶の奴が今日一日、相当気を張ってたみてえなんで」
「!気付いていたのかい?彼女、相当今日はそれで疲れていると思っていたんだけど」
「あいつの事ならまあ気付きますよ。会議室に入ってきたあたりからかなり警戒心を強めてましたし」
Aの奴がいたからかもしれませんがと付け足すも、首領の表情は変わらない。
「…彼の事もあるだろうけど、そこじゃあないだろう……まあ中原君の書類仕事がまた速くなってきたのは凄いことだ、ここで僕から提案があるんだけど」
少し話をはぐらかされた気がした。
首領は詳しく蝶から何かを聞いているし、俺に蝶が聞かせなかったあたり、何かを隠しているのは間違いない。
しかしそれは蝶が俺には聞かせたくなかったこと。
詮索をするべきでもねえし、深く考えるべき事でもねえ。
すぐさま頭を切り替えて、提案?と聞き返す。
すると首領はにこりと微笑んで、俺に言った。
「夏休み、あげる♪」