第11章 縁というもの
「いやあ、それにしてもベッタリだ…中原君、蝶ちゃんに何したのいったい。私、蝶ちゃんが怒ってた記憶しかないんだけど」
「首領…聞かねえでください、お願いします…!!」
報告書を仕上げて首領の元に届けられたのは結局夜。
散々名前を呼ばれて照れさせられ、散々くっつかれてたってのにも関わらずキスは拒まれ…そんな状況下でまともに仕事なんざ進められるわけがねえ。
こんな生殺しに耐えながら仕事だと?
どっかの組織の殲滅任務でもありゃあ、喜んで引き受けてえくらいには今俺はむしゃくしゃしてるってのに。
『中也さんは照れ屋さんだもんね、蝶知ってる』
「お前はちょっとだけ黙ってろください」
蝶からいいの?そんな事言って、と薄く微笑まれ、ビクリと肩を揺らす。
そしてそろりと顔を向け、口角をぴくぴくさせながら引き攣り笑いになった。
誰のせいでんなことになったと思ってんだ……なんて考えている内に、ようやくここで、元を辿れば俺のせいであったという事に今更気付く。
「うん、まあ仲が良いのはいい事だ…蝶ちゃん、中原君もうちょっとだけ借りてもいいかい?あと聞いててもらう分にはいいんだけど、蝶ちゃん色々と疲れてるだろうし、そこのソファーにでも座っててくれて大丈夫だよ」
そんな事で今の状態の蝶が離れるか?と思っていれば、蝶は何故か困ったような顔を首領に向けて、じゃあお言葉に甘えさせていただきますねと一言。
正直に言うと、驚いた。
確かに本人は今一応脚のリハビリ段階でもあるし、そんな状態で外を出歩いて動き回ったり、蹴りを入れたり…疲れて入るんだろう。
だがこの状態の蝶が意地を張らずに俺から離れようとするだなんて本当に珍しい。
と思ってはいたのだが、流石に離れるところまであっさりいかないのが持病発症中の蝶さんである。
『…』
俺から手を離したかと思いきや、外套を緩くつまんでなかなかそこから動こうとしねえ。
なんだこいつ、今日俺の事悶え殺しにかかってんじゃねえのかと思うような行動なのだが、本人が素直に離れようとしていたあたり本当に疲れてる。
時間も時間だから、ちょっとでも休ませておいた方がいいのは確かだろう。
「……持ってていいから、休んでこい。疲れてんだろ?あんま無理すんな」
もうここには、お前を利用しようと考える輩も、お前を無理に働かせようと企てる奴もいねえんだから。