第10章 名前を呼んで
私の一言にピクッと肩を震わせた中也さん。
「……ああ、あいつには勿論…でもお前、トウェインの奴のこと、敬称付けずに呼んだことあんだろ」
ここで突然登場したトウェインさんの名前に、目をぱちくりさせた。
トウェインさんに敬称を外して呼んだことなんてあったっけ?
立原は初対面の時になんかすっごいむかついたから立原だけど、トウェインさんになんて…
と、ここで思い出されるトウェインさんと出会った日。
『…………あれ、でも結局付けかけてたような気が「呼んでんじゃねえか」だ、だって無理矢理呼ばされて…』
蝶、と呼ばれてビクリと反応し、恐る恐る中也さんの目を見つめる。
「俺も、お前に呼ばれてみてえんだが?俺だって普通に名前で呼ばれても『………ゃ…』……、あ…?」
聞き返されてしまって、今は何も恥ずかしくないはずなのに、顔を見れなくて目を逸らしてしまう。
呼ばれたい、そんな言い方されてわがままだなんて言われたら、私は従う他ないじゃないですか。
名前を呼んでほしいって気持ち、痛いほどによく分かるんですから。
呼んでもらえた時にどれだけ嬉しくなって、どれだけ幸せになって…どれだけ満たされるか、私は貴方のおかげでいっぱいいっぱい知ったんですから。
『だ、から…っ、その……』
「なんだよ、言いてえ事があるなら言ってみろ。珍しく持病発症してんのに素直じゃねえな?…ほら、怒らねえからちゃんと____」
『___ち、……ッ、ちゅ…う、ゃ……っ』
顔が見れないから、今どんな表情をされているのかがわからない分、反応が無いから余計に恥ずかしい。
せ、折角頑張って呼んだのになんで何も反応がないの。
「……蝶」
『!!……は、はい…っ?』
「もっかい…頑張って続けて言ってみてくれ」
『ッ、……ち…………ちゅ、うや…』
「なあ、もっかいキスしていいか?」
『もうダメえええ!!!!』
流石に身が持たないと反射的に半泣きになりながら拒否した。
感想も無しになんでキスなの、さっきいっぱいしたじゃん、私が泣いても続けたじゃん。
「わ、悪い…ちょっと気が動転して」
恐る恐る顔を向けると、片手で顔を押さえながら真っ赤になっている中也さんの顔。
目を見開いて本気で驚いている。
こんな顔するんだ、この人…
「……マジでクるこれ…やべえな、お前があんだけ反応すんのも納得だわ」