第10章 名前を呼んで
中也さんの澪呼びに満足して、更にギュウッと抱きついた。
『えへへ、満足です…♡』
「デレ期ですかこの野郎…って久しぶりな気がするんだがこの感覚」
まさかと言いながらこちらを覗き込む中也さんに構わず擦り寄って甘える。
幸せ、心の底からもう幸せ。
二人きりの時にたまに澪って呼んでくれるのも好き。
頑張ってくれてるのかたまに蝶って呼ぶ時に間違えるのも大好き。
『中也さんが澪って呼ぶから嬉しくなっちゃった』
「……澪さん?もしかして持病って、お前の本性だったっつう事でいいんですかね」
『…可能性はあります?』
「症候群蝶さんマジで素直…あー成程、なんかやっと分かった気がするわ。二重で可愛いとか何なんだよお前」
中也さんの可愛いにもそろそろ素直に嬉しく感じる。
恥ずかしさも抜けて、ただただ中也さんに甘えられるのが幸せ。
人と触れ合って甘えられるのが、幸せ。
殺しかけていた澪が顔を覗かせていたのは、怒った時だけなんかじゃなかった。
押し殺していた、大人になれなかったままの澪が、中也さんに甘えたがっていた。
澪が蝶の一部なのか、蝶が澪の一部なのか…そんな事は分からないのだけれど、結局は私が中也さんに……誰かにこうして、ただ甘えていたかったんだ。
『中也さんも私の事が大好きだからね〜…』
「仰る通りで……!蝶…でも澪さんでもどっちでもいいが、お前さ、」
中也さんが突然何かを思いついたように話しかけてきたため、首をコテンと傾げて中也さんを見る。
「お前…俺の事、敬称付けずに呼んでみろよ」
『…………えっ』
「持病発症中ならいけんだろ流石のお前でも」
『い、いや…ち、中也さんに敬称つけないとか無「無理とか言わねえよな、立原は付けてねえもんな?」なんで立原に張り合ってるの中也さん…?』
唐突すぎる中也さんの思いつき。
いや、思いつきというか、この言い方だと実は思っていた事があったのだろうか。
でも中也さんの事なんか中原さんか中也さんとしか呼んだことないし、今更敬称付けずに呼べって言われたって恐れ多いし…何より心の底から尊敬してるし。
「じゃあ俺のわがまま」
『…そういう言い回しずるい……なんでいきなりそんなの……』
「俺はお前と対等なはずだ、んなもん必要ねえはずだろ。…後、ちゃんと名前で呼ばれてみたかっただけだ」
『……立原に妬いた?』