第10章 名前を呼んで
『…は…ッ、も、もうや……っ、も、ちゅやさんや…っ』
「嫌々言いながらそんな俺にしがみついてたら説得力の欠片もねえぞ蝶?深いのしてねえのにもうバテてんのか」
『……~〜~ッ、しすぎなんですよ、中也さんの馬鹿あああ!!!!』
私がキスされて気分が良くなってくるとすぐこれだ。
調子に乗るだけ調子に乗って、私が恥ずかしさに涙目になってもやめてくれない。
正直に言おう、鬼だ、鬼。
キス魔ですって?なんですかその可愛らしい名前は。
ただの鬼ですよこの人は。
「蝶が可愛すぎてつい」
『ついじゃないっ!!』
「泣いてる蝶も可愛いもんだ」
『泣かせないで下さいよ!!?』
だめだ、言ってもキリがない。
いつか本気でキスだけで殺されそうな気がする。
震える身体でなんとか中也さんの首元に抱きついたまま、肩で息をして呼吸を整える。
だいぶマシにはなってきたものの、一向に顔が熱いのが引く気配がない。
『第一限度ってものが「俺なんかに好きになられちまったお前が悪い」そんな理不尽な……ッ、ぁ…』
反論し続けていると、頭に優しく置かれていた手が動いて、撫で撫でと私を宥め始める。
ただでさえキスされすぎて色々と敏感になってたのに、こんな風に甘えさせられるとたまらない。
ただでさえこの人には逆らえないのに、ただでさえこの人のこの手に撫でられるのが大好きなのに。
「んで、俺なんかを好きになっちまったお前が悪い……これも好きだろ?澪」
『ッ!!……っ、ん………大好き』
「そういうことすっから余計可愛いんだよお前」
それはこっちの台詞だ。
そうやって私が一番大人しくなりかけてる時に名前なんて呼んできて…蝶って呼ばれるのに慣れすぎてて、そっちで呼ばれるとどうも何も言えなくなってしまう。
擦り寄るように中也さんに甘え始める私の身体。
身体だけなんかじゃない、澪を呼ぶなんてずるい人。
そういうことをしてくれるから…してくれてしまうから、余計にこの人から離れられない。
『…中也さんお仕事は……?』
「あともうちょい書類纏めてから首領に持ってくのと…まあ、スカウト相手の書類に目を通しておくくれえか?そっちは量が半端ねえ代わりにかなり期限に余裕あるが」
『そ。一緒いていい?』
「!……いたけりゃいろよ」
『…もう終わり??』
「…俺の事好きすぎやしねえですか、澪さん?」