第10章 名前を呼んで
なんとか体を起こして蝶の頬を撫でるも、蝶はそこから離れようとしない。
本人の中ではかなり意固地になる部分なのだろうか、恐らく前に触らせなかったのを相当気にしてやがる。
「俺の事は気にしなくていい、そんな事はしなくていいんだ」
『……されたく、ない…?蝶じゃ、らめ……?』
「そういうんじゃねえんだよ…お前にんな事させるわけには……ッ、蝶っ…!!」
留め具を外されてファスナーを下ろされ、流石に焦って蝶の肩に手を置く。
痛がらせない力加減に留めるものの、それでは結局止められない。
しかし、かといって強く引き剥がすのも心苦しいもんがある。
蝶がこういう迫り方をしてくる時に…以前キスを拒んだ時に、泣かせちまった。
くっついているのを、周りの目を気にして、焦っていい加減にしろと声に出してしまった事で、能力を暴走させる程まで追い詰めてしまった。
こいつの俺への想い入れは相当なもんだ、そんな事分かりきっている。
しかしそれとこれとは話が別で、だからといってこんな処理をさせるべきじゃねえ。
第一自分でする事だって無かったような俺が、そんな事をされてまともに耐えられる自信がねえ。
『…大人の人は、こーするんでしょ……?』
「んな急いで大人になんかなろうとしなくっていいっ…だからとりあえず落ち着くんだ、また次の機会にでも頼むから……『蝶、元から大人……ちゅーやさんと一緒の、大人…ッ』…!!」
酔うと本性が出ちまうタイプ。
ここにきてそれがようやく分かった。
気にしていたのは、周りからどう見られるかなんかじゃねえ。
自分の身体が元のままなら、俺と同じく大人だった。
身体が子供に戻っていなけりゃ、確かに俺はここまでこいつにこうさせるのを躊躇ったりはしねえ。
本来であれば俺と肩を並べるくらいの歳であってもおかしくないはずの蝶の身体。
本人の中でそれは根強いコンプレックスになっていた…だから年齢の事や背や童顔の事について触れられるのが嫌だった。
こいつは早く大人になりたいんじゃねえ、俺の隣にいたいだけだ。
焦って成長しようとするのは、自分が大人だったはずだからだ。
____本心は多分、お前の隣にいたいという至極単純な、子供のような奴だ。わがまま言うのも怖いんだろう。
いつかに言われた織田からの言葉。
「……蝶、お前…ちゃんと意思表示出来るようになったんだな」