第10章 名前を呼んで
「ど、どうりでこんな…」
「本人もそれで飲まねえようにしてたんだが……まあいい、とりあえず運んでくれて助かった。手前も明日から大変だろうし帰って休め」
立原に礼だけ言って、相手が出るのを見送ってから蝶を連れて家に入る。
なんともまあ嬉しそうにくっついてくれちまっているんだが…まさかこうも酔いが回りやすいとは。
『ちゅーやさぁ…らいすきぃ…っ♡』
完全に出来上がっちまってる。
驚く程に酒の匂いがしねえのにこうも豹変しちまうとは…恐るべし蝶。
「お、おう。俺もだ…とりあえず横になった方がいいんじゃねえか?立ったままっつうのもしんどいだろうし、ベッドにでも____!!?」
言った瞬間、景色が自分の部屋へと移り変わる。
こいつ、能力使いやがった…!!
気づいた時にはもう遅く、蝶の奴に押し倒されるような形で俺ごとベッドに横にならされる。
上から覗き込んでくるその顔はいつもよりも子供のように甘えたがりな顔になっていて、だけれどどこか色気を感じる。
これは駄目だ、かなりクる。
「……ち、蝶?お前、横になるならせめて着替えてこい、な?部屋着ならもう家に荷物ごと運んできたから、部屋に戻って……ち、蝶?蝶さん!!?」
『ん…部屋着いらない、シャツでいー……』
「シャツでいいっておま…っ、せめて離れて着替えろ!!」
『……ちゅやさん…嫌い?蝶の事嫌いになっちゃった……??』
突如涙目になって顔を歪め始める目の前の少女にゲッと声を漏らして冷や汗を流す。
「い、いやいやいや!そんなわけねえだろ?…見ねえようにしとくから好きなところで着替えろ」
『!ちゅーやさんとこいる♪♪』
「おう、好きなだけいろ」
蝶の頭を撫でてやりながらグッと目を閉じて煩悩に抗う。
耐えろ、耐えるんだ男中原…例え好きな女が目の前で着替えをしていたとしても絶対に目を開くんじゃない。
ここで見たら男じゃねえ…!!
強い意志を持って蝶が服を脱ぐ音を耳に掠めながらも、煩い心臓に抗うようにゆっくりと呼吸をする。
蝶は俺の上で上着やベストを脱ぎきったのか、今度は脚を動かしてもぞもぞと……ここで俺は悟った。
流石に拙いと判断して声を出す。
「ち、ちち蝶!?下はやめておこう下は!!風邪引いたら大変で……っ!!?」
しかし、俺の声は何か柔らかいものによって阻まれた。