第10章 名前を呼んで
『ここどこぉ??』
「こ、ここは探偵社の事務所だぞ?」
国木田さんの声が聞こえて、再びそちらをバッと振り向く。
『ちゅうやさんはぁ…??』
「中原中也なら『ちゅうやさん!!!』…ち、中也さんは今ここにはいないだろう?今は歓迎会の最中で…って待て、何故だ、何故泣くんだここで!!!」
『ちゅ、やさんいないの…っ?なんれ意地悪するのくにきらさん……くにきらさんやら…っっ!!!』
「うわっ、蝶ちゃん!!?落ち着いて…っていうかなんで僕に抱き着く!!?」
『谷らきさん好き…いっぱいケーキくれたの…』
「「「そこか……!!!」」」
グスンと谷崎さんに泣きついて、中也さん中也さんと口にする。
『ちゅやさんいない…もぉ生きてけないぃ……くにきらさんやらぁっ』
「な、何故俺が……クッ、少し待て白石!こうなれば最終手段だ、太宰の奴に電話を『!太宰さん!!!』うおっ!?なんでいきなりそんな…………!だ、太宰か!?緊急事態だ、今白石が『太宰さぁ…ッ、くにきらさんが意地悪するの…』お前は谷崎にくっ付いていろ!!?」
国木田さんの大きくなる声にまた怖くなって、ピタッと声を出すのを止める。
しかしそれで我慢したら余計に悲しくなってきて、結局声を出して泣いてしまう。
なんで中也さんに会わせてくれないの、なんで私の事を怒鳴りつけるの。
谷崎さんによしよしとあやされながらも泣いていると、突然太宰さんの声が響いてきた。
「蝶ちゃん、中也に会いたいんだね?」
『!ん…ちゅーやさん欲しい』
「「「ブッ!!!」」」
「うん、そうだね、中也さん欲しいね。よし、ちょっとだけ待っていたまえ!すぐにお迎えが来て中也さんのところに連れて行ってくれるから!」
太宰さんの声に目の前がパアアッと明るくなる。
本当!?と聞くとうん、本当だ!と答えてくれる太宰さん。
『太宰さん好き!ケーキとちゅーやさんの次に好き!!♪』
「ぐッ…!!そ、うだねっ、ケーキと中也さんの次に好きだね、ありがとう」
『うん♪…………ちゅーやさんはぁ?』
「うんうん、中也さんのところに今から送ってくれる人が行くから、もうちょっとだけ待っててね~」
太宰さんが待っててねと言うと、コンコン、とノック音が響き渡る。
それに勢いよく走って行って扉を開けると、なんだか見覚えのある絆創膏が目に付いた。