第10章 名前を呼んで
「ちょっ、与謝野先生、蝶ちゃんに何したんです!?」
「……!シミ…まさかワインを飲ませたんですか!!?」
なんだか怠くて熱い身体を起こされて、頬に触れる冷たい感触に目を細める。
ひんやりしていて気持ちいい…誰かの指だ。
誰かな…中也さんかな。
『………ん…気持ちぃ…』
頬に触れていた指に擦り寄ると、ええ!!?と大きな声が上がってパッと気持ちいい感触が離される。
『……なんれ離すんれすか中也さん…いつもいつも好き邦題触るくせしてこんな時だけまた意地悪して…』
「ちょ、ちょっと待って蝶ちゃん!!僕!敦です敦!!!中原さんじゃないよ!!?」
眉間にシワを寄せていたのを少ししてからパッと話して、へにゃりと顔を緩めてそっかあと目の前の人に抱き着く。
「ひええっっ!!?」
「敦!!?」
『敦さんかぁ…えへへ、かぁわいいなあもう……んれ、中也さんはぁ??』
「ち、蝶……あんたまさか酒弱かったのかい?」
「まさかも何もないでしょう、どうするんですかこれ!!?」
これと聞こえて、声のした方にグルンと首を向け、敦さんを手放して立ち上がり、そっちにズンズンと歩いていく。
『これって何よぉ、これってぇ…これだから……えぇ…っと、だぁれ?立原?』
「国木田だ!!とっとと正気に戻れ白石!!!」
『……うあ、…っ、そんら怒鳴んなくてもいいじゃらいですかぁ…っっ!!!』
「は、はあ!?……って白石!?なんでそんな泣き出して…!!!」
「あーあ、泣かせた」
「国木田さんが十四歳の女の子泣かせちゃった」
「黙れそこ!!言い方が紛らわしい…し、白石、怒鳴って悪かった!機嫌を治してくれないか??」
涙を堪えないまま目の前の国木田さんと思わしき人物を見て、しかし怖かったものは怖かったので、拗ねて今一番欲しい物を強請る。
『……中也さん欲しい』
「「「は…?」」」
『中也さんに会うのぉ…中也さんどこにいるの……!オレンジ色…っ♡』
「ち、蝶ちゃん!!?僕谷崎!谷崎だから!!!」
谷崎だと言い張るその声は中也さんにしては高い。
顔を認識するためにギュウッと抱き着いて、ジィ、と顔を近付けて見る。
それでもボヤけて分かりづらかったらために首周りを指でなぞってみると、いつもあるはずの長めの髪の毛の感触が無い。
「ひぃ…っ!!?」
『ん〜……髪短い……』