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第10章 名前を呼んで


与謝野先生にもナオミさんにも頭をなでなでとされながら、とりあえずその心地良さに目を細めて浸っていた。

そしてそこで何を思ったのか、与謝野先生がグラスを机の上に置き、蝶、と一言。
なんですか?と首を傾げて与謝野先生に返すと、あんた…と与謝野先生が楽しそうな顔をしながらニヤリと笑った。

その顔に何かを察したのかわざとらしくナオミさんはどこかに去ってしまって、ソファーのところには私と与謝野先生二人きりに。
というか今の今まで普通に接してたけど、もしかしてこの人今かなり酔っ払ってる…?

「酒は飲めるのかい?なんだかどいつも酒付き合いが悪くてねえ?」

お酒と聞いて、その質問になんだか嫌な予感がしつつも、笑顔のまま返す。

『お酒…は、私一応まだ未成年なんですけど……』

「堅いこと言うんじゃないよ、あんた一応大人だろう?酒を嗜む事くらいなかったのかい?」

『い、いやいや与謝野先生、さっき私の事子供って……ていうかお医者さんがそんな事未成年に勧めないでくださいよ…なんて……』

冷や汗をダラダラと流していると、与謝野先生がグラスにワインを注ぎ始める。
未成年の飲酒はここではしてはいけないはず…けれども確かに私は普通の子供ではない。

飲めない事もないはずだけれど、飲んでしまうと非常に拙い自体が発生してしまうのだ。

「ほぉら…こんだけあるんだ、ちょっとくらい付き合いなよ」

『え、っと……お、お酒はやっぱり…』

「中原中也もワインが好きなんだろう?それなら付き合ってやれるようにすればいいじゃないか」

『………ッ、で、でもそれは…っ!!?与謝野先生!?』

中也さんの名前に少し戸惑ったものの、だめだとなんとか言い聞かせる。
しかしすぐに与謝野先生に抱き寄せられて、ほんのりと赤くなった顔のまま、与謝野先生がグラスを私の口に押し当てる。

「ほぉら、飲んでみなって…ちょっと酔うくらいなら大丈夫大丈夫」

『…ちょ、ッぁ…!!……ん…っ!!?』

グラスを傾けてワインが喉を伝い、服の方まで垂れてしまった。
咄嗟に口を開くとそこにいきなりワインを勢いよく注ぎ込まれ、暫く耐えていたのだけれど吐き出すわけにもいかずにゴクリと喉を鳴らして飲んでしまう。

一度喉に通すとクラリと身体が傾いて、身体が火照って段々と頭がボーッとしてきた。

「どうだい、美味いだろう……蝶…?」
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