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第10章 名前を呼んで


国木田さんの大きな声に全員静かになって、私の方に顔を向ける。
そこには一つも軽蔑するような視線は無くて、寧ろ本当に、頑張ったねというような、子供を褒めてくれるような、そんな優しいものばかりだった。

「蝶ちゃん大人びていたしなんでも自分で解決しちゃうから、今まで頼ってばっかりだったけど…焦らなくて大丈夫。周りに甘えて、甘やかされて、ゆっくり大人になっていけばいいんだよ」

谷崎さんの言葉も、受け売りなのかと思うくらいに中也さんと酷似しているもの。
だけどそれが受け売りなんかじゃないということくらい分かる。

「組合戦についてもそれよりずっと前のものについても、本当によく耐えてきた。よく、自分を苦しめていたはずの人間というもののために街を守った」

『…そんな、私別に、街の為なんかじゃ……』

「普通なら人間不信にでもなって、それこそヤケになってたっておかしくない。本当、よく救う側になんてなったもんだ…あんた、本当に偉いんだよ。並の人間に出来るようなもんじゃない」

太宰さんが話した全部というのは、零や実験の事を含めて、彼が知る限りの全部だったのだろう。
彼の知っている実験がどれなのか私は知らないけれど、何度も殺され、そして何度も殺しをさせられてきた事を、ここの皆はもう知っている。

私という人を、知ってくれている。

『……街のことなんてどうでもよかったんです。ただ、皆が傷付くのが嫌だったから…それに私が今こうしてここにいるのも、全部中也さんや太宰さんのおかげで……ッ!』

私が撫でられるのが好きだということまで話してしまったのだろうか。
こうされると安心してしまうというところまで、太宰さんは皆に言ってしまったのだろうか。

国木田さんにまで頭に触れられて、それこそ驚きしか頭の中には浮かんで来なくなって、口を閉じた。

「それでも結果、街を守ったのはお前自身だ。本当によくやった…謙遜なんてするんじゃない」

『く、にきださん…っ?な、なんか皆していきなり私に甘くしすぎなんじゃ……』

「………よく頑張った。偉かったぞ」

『!!!………そ、そんないきなり褒めないで下さ…ッ、嬉しいじゃ、ないですか…っ』

誰かに褒められると嬉しくなるもの。
よく頑張った、偉かった。
そう言われるのが、何よりも嬉しいもの。

隠しきれない笑顔がこぼれて、少しだけ滲んだ涙を指で拭った。
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