第10章 名前を呼んで
ほら!とお酒の入ったグラスを片手に与謝野先生が国木田さんを私の方に投げて、それに少しよろめきつつも国木田さんは私の方を向いて立ち上がる。
『え……っと、国木田さん…?大丈夫ですか?』
「お、俺は大丈夫だ、気にするんじゃない!!………いや、何分組合戦においては白石の活躍がやはり大きかったため、社の先輩として声をかけるべきだと思ってな」
『私に…?そんな、私何もしてませんよ?どっちかっていうと敦さんや鏡花ちゃんや、それこそ太宰さんの方が』
言いかけたところであいつらにはもう言ってきたと遮られる。
「お前が謙遜しても、お前がいなければ街は呪いの異能に焼かれていた。それに何より、敦と谷崎が白鯨に乗り込むことすらも不可能だっただろう」
『謙遜なんて…』
「とにかくだ、お前らしいといえばお前らしいがかなり今回も無茶をしてくれた……結果的に助かってくれたから良かったが、次からそこは気を付けろ。お前の命は、お前だけのものじゃあない」
国木田さんの言葉に中也さんの言葉が重なって、思わず目を丸くする。
まさか中也さん以外の人からこんな事を言ってもらえるだなんて思わなかった。
驚いたのが半分、心の底から嬉しかったのが半分とで動けなくなっていると、突然バシッと国木田さんの頭が与謝野先生に叩かれる。
「まぁたそんな事ばっかり言って…他には!蝶に言う事、まだ足りてなんかないだろう!」
『よ、与謝野先生、そんなに怒らなくても…「蝶は黙って聞いてな」は、はぁ…』
与謝野先生の勢いに負けて国木田さんに恐る恐る目を向ける。
すると何か口ごもっていたようだったのだけれど、覚悟を決めたのかヤケになったのか、口を大きく開いて、室内に響き渡るくらいの声を出して言い放った。
「よくやってくれた!!辛い思いをさせてしまったし、太宰の奴からお前に起こったことは全部教えられている…今回お前が大怪我を負ったり死にかけたりした事も知っている!本当によくやった…本当に、よく頑張った!!!」
『……国、木田…さん…………?』
ポカンとして国木田さんを見つめると、与謝野先生が笑いながら私に話しかける。
「皆、あんたがここに来るまでの経緯も辛い事も聞いてきた。大人びて見えてた理由もちゃんと分かった…だけどあんた、本当はまだただの子供なんだろう?本当に、よく頑張ったね」
『与謝野先生まで…』