第10章 名前を呼んで
『ん゛〜…も、無理……お寿司もうやぁ…っ』
「ウニ美味しいから!それにあとピザ二切れだけ!!」
『ウニ美味しいけどもういらな…〜〜〜ッ!!』
谷崎さんにいったい何のスイッチが入ってしまったのだろう。
中也さんとはまた違った言い方だけれど、結局無理矢理食べさせられる。
中也さんと違って食べなきゃ罪悪感の残るような目をむけてくるあたり、ある意味中也さんよりもタチが悪い。
『こ、こんなに食べるとか聞いてない…』
「ごめんね、なんか蝶ちゃん可愛くなっちゃってつい…はい、後はピザ二つだよ」
『そ、そんな事言ったってですね!?』
「ピザは僕が作ったやつだから食べて欲し『食べます』!それは嬉しい」
食べさせ方が上手い、妹がいるだけあって扱いが上手だ。
恐る恐る口に少しずつピザを含み、ゆっくりと噛んで食べていく。
物凄く美味しいのはよく分かる。
けれどもお腹がいっぱいになったのを通り越してしまえば、最早そこからは戦いなのだ。
谷崎さんの料理を残すわけにはいかない。
一思いにただそれだけを考えて、意地で全て食べきった。
完食だ、これでほんのちょっとずつだけれど、全メニュー制覇は突破したはず。
谷崎さんに顔を向けると感動したように食べ切れたね!と嬉しそうに笑っていて、食べられてよかったと心から思った。
『う…ッ、で、でもこれ以上は本当無理です、水でも飲んだらそれこそお腹破裂しちゃう……』
ソファーの背もたれに捕まってハアハアと呼吸を繰り返していると、そろそろ私の扱いを本格的に覚えてきたのだろうか、谷崎さんの手が再び頭を撫でる。
「うんうん、よく食べきったね、えらいえらい。…いい子にはデザートがあるんだけど、蝶ちゃん別腹の方は空いてる?」
『!!デザート!!?食べます、いくらでも食べられます!!』
「おお、すごい食いつき様…本当に甘いものならいくらでもいけるんだ」
待っててねと言ってから、谷崎さんはケーキを取りに行ってしまった。
谷崎さんのおかげで料理も一応全部食べられたし、本当に感謝だ。
谷崎さんに感謝しつつようやくありつけるケーキを心待ちにして待っていると、コツコツとヒールを鳴らして与謝野先生がこちらに歩み寄ってくる。
お酒を飲んだのだろう、顔を少し赤くしながら……国木田さんを床に引き摺ってこちらに来た。
え、何、何したんですか国木田さん。