第10章 名前を呼んで
『甘いものなら無限に食べられるんですけどね…これでも食べれるようになった方です。普段中也さんに無理矢理いっぱい食べさせられてましたから』
「いっぱいって因みにどれくらいの量?」
『!……飲食店とかでいうと、一人前…の八割程度?』
「そんなに少食だったの!?ごめんねいっぱい持ってきちゃって…それまだ全メニュー乗せきれてなかったんだよ」
谷崎さんのまさかの返しにえっ、と声が漏れる。
「出来るだけ全部食べたいかなって思って、ちょっとずつ盛ってきたんだけど…」
『い、いや、確かにそれはそうですしありがたいんですけど……えっ、これだけ食べたのにまだメニューあるんですか!?』
「パーティーみたいなものだし皆で食べるから結構…っていっても少しくらいは余裕がある量にしてたんだけど」
皆細いし華奢な人も多いのに、その身体のどこにそんなに食べ物が入るのだろうか。
鏡花ちゃんを見ても、私より身長があるとはいえ細身で小柄なあの子でさえもが未だに食べるペースを落とすことなく美味しそうに食べている。
『……多分太宰さん、これは言ってなかったと思うんですけどね?』
谷崎さんは私の隣に座ってから、小さく話す私の声に耳を傾けて聞いてくれる。
『私、中也さんと出会った頃はまだ全然普通の生活に慣れてなくて…他にも色々事情はあったんですけど、最初の内は拒食症みたいになっちゃってて、ご飯が全然食べられなかったんです』
「!そうだったの……それは知らなかった」
『ごめんなさい、突然こんな話。普通のご飯が全然食べられなくって、食べても戻しちゃったりして…それでも甘いものだけは食べられたんです。それでまあ、色々あって中也さんのおかげでご飯を戻さず食べられるようになっていって』
まだそんなにいっぱいは食べられないけれど、少食というくらいに留められるレベルの食事は出来るようになっている。
そこまでの事を伝えると、谷崎さんは私の頭をよしよしと撫でた。
乱歩さんに引き続いて…というより谷崎さんに撫でられたのなんて初めてだから、私は驚きを隠せなくなる。
『た、谷崎さ…ッ?』
「話してもらえて嬉しかったよ。それに、食べられるようになったんなら本当によかった……なんなら今日は中原さんの代わりに、僕が食べさせてあげようか?」
『!…ふふっ、面白い事仰いますね。じゃあ、もうちょっとだけ』