第10章 名前を呼んで
事務室の方に戻ってみると、料理を既にたくさん並べられていて、部屋の飾り付けもかなり進んでいた。
『こ、こんなに進んで…!すみません、すぐに私も____!?』
パーティー用の飾りを壁に付けているナオミさんや与謝野先生の方に行こうとすれば、はいそれ禁止、と谷崎さんに肩を押さえられ、ポス、とソファーに座らされた。
突然呆気なく座らされてしまったのに呆然として、よく理解しきれない頭を回してきょと、と腰を屈める谷崎さんを見る。
「太宰さんから一斉送信でさっき探偵社の皆に連絡が入ってね。蝶ちゃんが昨日貧血だったのを栄養摂取でゆっくり治すって事とか…あと脚の骨折がまだちゃんと治ってない事とか聞いてるから」
『だ、太宰さんから?え、治ってないっていってももう多分ヒビくらいですし、能力で……!』
谷崎さんに言い返しながら思い出した。
能力だけなんかじゃない。
この体質を敵にバラさないようにするためにも、本当に立原くらいの人がそばにいてくれた方が安心だ。
傷が再生する事……そして、死んだところで死ねない事。
そこまで見据えた計画を練られると厄介な相手だろうから、今日ギプスをつけずに椚ヶ丘に行っていて正解だった。
怪我もしてはいけない…余計に気を引き締めていかないと。
「うん、そう言ってすぐに動こうとするだろうからってきてたよ」
『だ、太宰さんめ…なんでわざわざ皆にそんな根回しを』
「中原さんからよーく言い聞かせるように言われたらしい」
『……ええ!?中也さんが太宰さんに!!?嘘でしょう!!?』
嘘じゃないよ、ほら
言いながら見せられた太宰さんからの連絡文。
そこには嫌味と悪口がたっぷり込められた中也さんから太宰さんに宛てたメッセージがそのままスクリーンショットで添付されており、こういう事らしいから皆しっかり監視しててねと書かれてあった。
「蝶ちゃんがそんなに料理が得意だったとは知らなかったけど、中原さんの保護者センサーが働いてるし、それに彼が心配するように調子が戻るまではちゃんと休養とらないと」
『ま、まさかこんなところにまで根回しされてるなんて…何、過保護にも程があるあの人』
「仕方ないよ、蝶ちゃんの事大好きなんだから中原さん」
谷崎さんの言葉にさえも恥ずかしくなって顔が熱くなる。
条件反射で大人しくなった。
あと数日だけ、大人しくしておこう