第10章 名前を呼んで
『!護衛に?なんでわざわざ護衛なんて…』
「君が能力を使わないようにしてしまうと、一人で対処出来ないような問題が発生した時に君が危険になってしまうからね。なにも戦闘だけに限らない……今日も電車で、わいせつ行為を受けたんだろう?」
乱歩さんの超推理…というか観察眼は本当にどこからそんな情報を得ているのか分からないくらいで、さしもの私も驚かされてばっかりだ。
『た、確かに受けましたけど…でも中也さんは幹部で横浜にいなくちゃならないし、そんな事……』
「僕は中原君だなんて一言も言ってないよ、蝶ちゃん。君がポートマフィアで、一番仲のいい男の人だ。いるだろう?一人…なんだっけ、名前が出てこない」
仲のいいという言い回し、そして男の人という乱歩さんの言葉に、たった一人だけ該当する人物が思い浮かぶ。
幹部とまではいかずとも、確かに私とは仲のいい“友達”である上、私が認めるくらいの力を持った頼れる人。
『…立原道造』
「そう、それそれ!銃を扱うだけあって能力を使わない蝶ちゃんの戦闘にはもってこいの人材だし、マフィアの中の立場的にも自由が効く上、かなり頼りになるはずだよ」
『ま、まあ直接鍛えたのもありますし……元々センスもありますし。でも、本当に護衛なんて…』
大丈夫だよ。
優しく声が響いて少しだけ俯かせていた顔を上げると、乱歩さんは微笑んでいた。
「同じく彼が殺されるということも無い。理由は探偵社の方と一緒…探偵社とマフィアが停戦協定を結んでいる上に蝶ちゃんがいる今、殺そうとしたところで時間と労力の無駄だからね」
それはそうかもしれないけれど、私が言いたいのはそういう事じゃなくて…
言いかけたところで、私の携帯に着信が入る。
乱歩さんはそれも予想通りだったのか、出てみなよと私を促して、その電話にその場で出させた。
『も、もしもし…“首領”』
「!よかった繋がって、中原君から盗聴器と昨日の話を詳しく聞いてね?後今日の痴漢の話も聞いたから、蝶ちゃんに一つ提案があるんだよ…ていうかお願い!」
『ボ、首領が私にお願い…?』
「そう!」
首領の提案ならぬ私へのお願いとやらに、薄々そんな気はしていたものの、やはり驚かされる事になる。
「明日から、外出時に蝶ちゃんに護衛を付けたいんだよ。そちらの社長にも話は通してあるから、出来れば幹部格と芥川君辺り以外で…」