第10章 名前を呼んで
谷崎さんの声にえ、と声を上げて?物凄い勢いでこちらに近づく人が一人…国木田さんだ。
「し、しし白石…き、貴様まさか中原中也と!?」
『え?く、国木田さん知らなかったんですか…?』
私の言葉にニヤリと笑う与謝野先生とナオミさん。
谷崎さんは苦笑いを浮かべていて、乱歩さんなんか馬鹿だななんて国木田さんを挑発し始める。
これは…上手く女性陣に弄ばれてた感じだな。
「聞いておらんぞ!?デザート類の買い出しを頼んでおいたとしか…あの男、うちの白石を……ッ」
「「「いや、あの人の方が先だよ」」」
『あ、あはは……!そうだ、乱歩さん。こんな時になんですけど、ちょっとお話いいですか』
苦笑いを浮かべて、すぐに大切な事を思い出した。
流石と言うべきか察しのいい乱歩さんはすぐに私と二人で会議室の方に入ってくれて、真剣な目付きに切り替わる。
他の人達は首を傾げていたのだけれど、とりあえず今日のような日に大事にしたくはなかったので、二人だけで相談することに。
太宰さんはどこかに用事があるらしいから、あの人には明日にでも相談しよう。
今日椚ヶ丘であった事を説明してから、例の盗聴器と、回収した発振器類を取り出して見せる。
『発振器や盗聴器内部に塗料が塗られてたのを考えると、私を狙ったものなんじゃないかと…』
私が昨日死にかけたという事までちゃんと話すと、乱歩さんは眼鏡を掛けて下さった。
この人が自ら眼鏡を掛けて下さるだなんて滅多にない事だ、かなり複雑な事案なのだろうか。
ほんの数秒経ってから、乱歩さんは顎に手を当てて、首を傾げる。
「……妙だな、確かにこれは蝶ちゃんを狙っている者の行動だけれど…そんなに単純なものではないようだ」
『!単純なものじゃ、ない?』
「ああ。君の推測と僕の見解は同じだよ、だけどどうも引っかかる…何故ならこの盗聴器を仕掛けた人物は、君に首輪を付けた子の組織とは本来関係の無い人物だからだ」
乱歩さんの言葉に目を見開く。
あの子の言ってたボスとは関係の無い人物?
「それに蝶ちゃんと中原君が妙だと感じたその気配、話を聞いただけでも異様なものだと受け取れる。本当に妙な話だよ……僕の異能をもってしても、その犯人の素性が“全くもって分からないんだから”」
『!?全く、ですか…?』
「ああ、こんなに悔しい事はかつてない程……これ暫く預からせて」