第10章 名前を呼んで
横浜に到着してから、中也さんの車で探偵社まで送ってもらう。
流石に今日は中也さんは中まで入れないので、車をとめてもらってからケーキを上手く能力で浮かせ、転けたり崩したりしないよう車から降りる。
「マシにはなってるんだろうが、その脚であんま働くんじゃねえぞ」
『分かってますって、そのためにケーキ作るの我慢して買いに行ったんですから』
「俺が見てねえからってせっせと動き回りやがったらもう家で料理させねえからな」
『肝に銘じさせていただきます』
目が本気だった。
結局どこまでいっても親バカじゃないかこの人、しかも多分これで動き回ってたら本当にバレる。
情報筋なんてものなくても、帰って顔合わせたら絶対バレる。
この人の過保護センサー本当に何ものなんだろう。
「よし!行ってこい……あ、それと今日俺酒入るだろうから、ちょっとゆっくりしてから帰ってこいよ」
『?別に中也さんが酔ってても気にしませんよ私』
「お前が良くても俺が気にすんだよ、何しでかすか分かんねえから…とにかくゆっくりそっちで楽しんでから帰ってこい、いいな」
中也さんが何故か頭を抱えているものだから、とりあえずはいと答えて了承する。
すると頭に手を回されてから、クイ、と顔を引っ張られ、おでこに軽くキスをされた。
『……ッ、キス魔、親バカ』
「諦めろ、恨むんなら俺に好きになられた自分を恨め」
『理不尽』
「んじゃ、こんな男を好きになっちまった自分を恨め……ああ後、また言ったな?“親バカ”」
中也さんの笑顔にあ、と声を漏らして、冷や汗がたらりと流れる。
そ〜っと車の窓から後ずさってこちらも引き攣った笑顔で返すと、今日マジで覚悟しとけよと一言。
これは、もしかしたら中也さんが酔ってる内に帰った方が得策かもしれない。
覚えてない内に帰って、すぐに中也さんを寝るように誘導しよう、そうしよう。
心に深く考えを留めてから、顔を青くして手を振って、中也さんと別れた。
『こんば……わ、飾り付けもう始めてたんですか!?すみません遅くなっちゃって!』
エレベーターで登って事務所に入ると、既に飾り付けや料理の用意が始められていた。
「いやいや、今日するって言ってなかったこっちのせいでもあるし、デート中にケーキの買い出しに行ってもらえただけでもありがたいよ、本当にありがとう!」