第10章 名前を呼んで
今、一瞬だけれど腰を触られたような気がする。
確かに満員で窮屈だといえば窮屈だから、手が当たっただけだとかなら有り得るのだけれど…
『…ぇ、ッ……っ!?』
腰に再び手が当たったかと思えば、その手が私の腰を撫で下ろしてヒップを触り始めた。
撫でるようなその手付きは流石に偶然のものではないだろうと判断して、咄嗟にその手首を掴む。
すると相手は驚いたのか手首を一瞬ビクつかせるのだけれど、スッと指を動かして、ホットパンツの上から割れ目をなぞり上げた。
それに私の方が動けなくなってしまって、相手の手首を掴んでいた手の力が緩まる。
「……君、この電車じゃ見かけた事無いね。可愛い顔してるからよく目立ってたよ」
『!な、ッ…や、やっぱりわざと触……っ!!?』
話しかけてきたその人は手を更に下ろして太股の内側をサワサワと触り始める。
まだそこまで歳じゃない人だ、そんな人がなんで私みたいなのに…周りの人に気付かれないよう声を抑えるのに必死になって、片手で口を押さえながらもう片方の手を壁につく。
内側を撫でられただけでこれだ、本当に腹の立つ身体。
こんな端に来るんじゃなかった、せめて中也さんがいてくれれば…
中也さんのいた方向を見ようと顔を向けようとすると、男の人の手が脇腹を撫で上げて胸元に到達した。
肩をビクビクと跳ねさせて声を押し殺して耐えていると、男の人の声が耳元で響く。
「いいの?連れ…というより彼氏さんかな。こんな事されてるってバレちゃうよ」
『!!……ッ、ぁ…やだ、やめ…っ』
抵抗するように身じろいでいれば、もう片方の手が後から敏感な所に触れ始める。
右胸を触られながら敏感な所をなぞられて、声を抑えるのだけでもいっぱいいっぱいなのに、次第に恐怖心が私の中を支配していった。
怖い、男の人にこういう目線を向けられるのが…中也さん以外の人にこういう触れられ方をするのが。
『ッ!!?』
だけどこんな事をされているだなんて、誰に言える?
周りの人に?中也さんに?
言うのも怖い、バレるのも怖い、だけどこのままいってしまうのがもっともっと恐ろしい。
胸を強引に揉みしだき始める手に思考が段々占領され始め、怖いのと嫌悪感とが頭の中を埋め尽くす。
それに私の胸だってまだ成長の途中段階だ、こんなに強引に触れられると……正直に言って、敏感だから結構痛い。