第10章 名前を呼んで
『ごめん皆、とりあえずこういう事があるにはあるから、やっぱり能力の説明はここまでにしておくね』
「……水差しちまって悪かったな。こいつが手前らを狙ってのもんなのかこっちの問題かは早めに解決させっから、それまでは…そうだな。出来るだけ烏間先生やあの英語教師、あと担任と行動していた方がいい。俺の方から連絡しておく」
念には念を重ねたようなこの構造…開けてから中の発振器を発見して、それを壊そうと手に取った段階でこちらの負けが確定するようなこの作り。
入念さが素人のものじゃあない。
プロどころか、最早日常的にこんな事ばかりをやっているような人じゃなきゃ、普通そんなところまでしないだろうし……何より、この盗聴器の入念さから、ある程度もう私の中では想像がついている。
『…中也さん、これ多分、私狙いの方だと思う。私個人なのか探偵社の方か、ポートマフィアか……あるいは全部か』
「なんでんな事が言いきれる?」
『だって、そもそも盗聴器なんて物、気付いたところで誰も持ち帰らないでしょ?なのに中には発振器…それも必死なのが分かるくらいに、塗料まで塗ってあった。最悪発振器を壊されてもいいようにって付けられたものだよ。蓋には一切付いていなかったんだから』
私の声に、その場の皆がざわめき始めた。
盗聴器を持ち帰るような人間は、警戒心の強い、それも自分が追われるような心当たりのある人間のみ。
普通に生活していてもまずこんなものには気付かない。
『……もしかしたら登校ルートなんかまでつけられてるかもしれないね。中也さん、私次から、これの犯人なんとかするまで公共の交通機関で椚ヶ丘に通うことにする』
「!だがお前、それだと移動時間もかかるし隙が多くなるんじゃねえのか」
『大丈夫だよ、能力知られるよりよっぽどマシ。最悪襲われでもしたら、それこそ窒息させてでも拠点の方に連れ帰るから……なんかあんまりいい気分じゃないし、心配になってきたから早めに帰ろ。下手に皆と一緒にいない方がいいような気がする』
「ち、蝶ちゃん…っ、その、何か手伝えることない?」
カエデちゃんの声に振り向いて見れば、皆私に真剣な眼差しを向けてくれていた。
『うん、気持ちだけでもすっごい嬉しい。でもやっぱり危ないと思うから、皆は普通に生活してて。……磯貝君、ホールケーキ三つとロールケーキ二つ、持ち帰りで頂戴』