第10章 名前を呼んで
『持って帰って調べ……太宰さんに頼んでみる』
「ああ、そうしとけ。狙いがこいつらなのかお前なのかが分からねえから、あんまり迂闊に行かねえ方がいい」
元いた席の方に戻ると、もう嫌な存在感はどこからも感じ取れなくなっていた。
中也さんも私もそれにはあ、と息を吐いてから、中也さんが根元を壊してきた盗聴器をまじまじと見つめる。
『あー危なかった、目的は何にせよ、迂闊に口に出さない方がいいねやっぱり…この盗聴器、完全にお手製だろうし。相当頭がきれる人だよこれ』
「ち、蝶ちゃん、盗聴されてたって…」
『…私と中也さんがここに入る前には、こんな気配しなかったし見なかった。だから、たまたまなのか意図してなのかは分からないけど、私達が入店した後にこれを設置した人間が外にいたはず』
「よくこいつらと話してて気付いたな、蝶。俺でも流石に違和感なかったぞ」
あれよりもっと気分が悪いの、知ってるから。
一言吐き捨てるように言ってから、盗聴器をまずは解体する。
何してるんだよと声が上がるけれど、そんなものに構ってられない。
下手な物を持ち帰る危険性があるのだから、何か仕込まれていないかちゃんとチェックしてから持ち帰らなきゃ。
『!やっぱりあった、発振器…中也さん、この発振器、触れずに壊して。多分放射線追跡塗料塗られてる』
「んなもんまで…」
どこかに飛散させることなくグシャリと異能でそれは壊され、他の店に立ち寄って買い物した時に手に入れたビニール袋に回収した。
それから能力を使って塗料だけをなんとか浮かせ、全て回収する。
念のためにこの盗聴器に触れた中也さんや私の手にも能力を使ってみたけれど、どうやらそこには塗料は付着していないらしい。
とりあえず発振器の類は全て除去し終わったため、今度は誰かにセロハンテープを持っていないかと尋ねる。
すると持ってるぞと吉田君が名乗り出てくれて、セロハンテープを渡してくれた。
それを使って盗聴器内部と外部の付着物を取っていき、それを透明なハードケースに入れて中也さんに手渡す。
『これ、もしかしたら季節外れの花粉かどこか別の場所の土でも付着してるかもしれないから、隠密の方と検査班の方にお願いします』
「了解。本体はどうする」
『持ち帰ってから乱歩さんに見てもらいます。塗料と発振器は……撤去の作業が進められてる輸送ヘリにでも』