第10章 名前を呼んで
「あ、それでさっきいきなり中原さんの背中に移動したんだ?」
『うん、自分にも使えるし、周りの人にも使えるからまあまあ便利』
物を動かしたり入れ替えたりしている内に、そろそろ大きな動きをさせる事が多くなってきたからか、皆気づき始めたらしい。
「ち、蝶々?……あ、消えちゃった」
白い蝶…今日はあちらも気分が良いのか、私の気分が良いからか、テレポートなんかでも顔を見せてくれた。
何羽かがヒラリと舞うのに皆それを目で追うようになり始めて、私は物を動かすのをやめる。
「綺麗…凄いね!蝶ちゃんの名前にぴったりだ!」
「蝶の能力ならもっと綺麗なのあるだろ、あれは使わねえのか?」
中也さんの言葉にカルマ君や前原君は察しがついたらしいけれど、私は内緒だと言葉を返す。
『別に守秘義務があるわけじゃないけど……怪しい敵にでも聞かれると嫌だから』
喫茶店の外を警戒する。
殺気があるわけじゃあないのだけれど、ここに入って少ししてから、おかしな気配を感じるのだ。
「怪しい敵って…!蝶、お前、ちょっとこん中で待ってろ。俺が行ってくる」
中也さんも私の表情からこの気配を察知したのか、頭をポンポンと撫でてから立ち上がって、喫茶店の外に行ってしまった。
皆は目を丸くして首を傾げているのだけれど、私からしてみるととてつもなく気持ちの悪い気配だ。
殺気…それどころか、他の感情すら感じ取れない。
なのにそこに存在していて、とてつもない存在感を放つ人がそこにいる。
たまたまそこで待機しているだけなのか、或いは何か嫌な敵の類なのか。
ただ一つわかるのは、得体の知れない何か…とてつもなく異形な何かであるということだけだ。
カラン、と音を鳴らして、中也さんが外から戻ってきた。
無事だったのにとりあえず一安心なのだけれど、何やら様子がおかしい。
いったい何だと思ってそちらに歩いて行くと、中也さんは一筋、冷や汗を流していた。
『……中也さん?何か、ありました?』
「…………この店、盗聴器仕掛けられてたぞ」
「「「!!!」」」
中也さんが既に壊してきたらしいのだけれど、私が先程感じたものをずっと感じ取っていたのにも関わらず、辺りには人一人いなかったらしい。
屋根の上も見てみたらしいのだけれど、誰もいなかったんだとか。
『…盗聴器、粉砕?』
「いや、流石に大元の部分だけだ」